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2019/09/17

音楽で味わう幸福 〜 エラとルイのデュエット集

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https://open.spotify.com/album/07tbMxw9qeVsNIq0l7xBBX?si=OcPAN9F-TQSpQZ5FdKBoGg

 

昨2018年のリリースだったエラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの『チーク・トゥ・チーク:ザ・コンプリート・デュエット・レコーディングズ』。もう何回聴いたかわからないほど聴いています。こんなにも幸せな気分になれる音楽もなかなかありませんからね。ぼくにとっては最高の音の幸福なんですね。音楽命の人間ですから、音の幸福の最高ということは、人生で No.1のハピネスってことです。

 

『チーク・トゥ・チーク』は、おなじみ『エラ・アンド・ルイ』『同アゲン』『ポーギー・アンド・ベス』を基本として、エラとルイのデュオ歌唱集を、デッカでのシングル盤音源までふくめてあらいざらいぜんぶ集大成した、CD なら四枚組。サウンドの幸福感という点に絞って言えば、『アゲン』が終わる三枚目冒頭まででじゅうぶんじゃないでしょうか。やっぱり『ポーギー・アンド・ベス』パートに入ると雰囲気かわっちゃいますからね。

 

そんでもって『チーク・トゥ・チーク』四枚目は、ほんのちょっとのライヴ音源のほかは別テイク集ですから、これもあまり考えなくていいように思います。幸せな気分にひたれるのは、四枚八曲のデッカ・シングルズ、『エラ・アンド・ルイ』『同アゲン』分で、完全集 CD だと三枚目の2曲目までということです。『ポーギー・アンド・ベス』もいいんですけれども。

 

エラとサッチモのデュエット集となれば、ふつうみんな『エラ・アンド・ルイ』から思い浮かべるだろうなと思うんですけど、完全集『チーク・トゥ・チーク』ではその前にまずデッカ・シングル音源八曲からはじめています。たんに録音・発売順ということですけど、そうでなくともこの順序が大正解だと思えるんですね。だってこの八曲のフィーリング、極上じゃないですか。

 

デッカ・シングルズではジャズ・オーケストラが伴奏をつけています。そのビッグ・サウンドに乗ってエラとサッチモがシルクのようななめらかさで歌いつづっていくラヴ・ソングの数々。かけあいながら、ソロで、会話しながら、このリラクシングなムードを最高度にまできわめていますよね。ここまでのシルキーな音楽はなかなかないと思いますよ。ぼくからしたら、この『チーク・トゥ・チーク』こそ No.1のシルキー&メルティ・ミュージックです。

 

そのデッカ・シングルズからそうなんですけど、扱っているラヴ・ソングの歌詞のなかには、哀しく切なくさびしいロスト・ラヴがわりとありますよね。9曲目以後の『エラ・アンド・ルイ』『同アゲン』パートまでぜんぶふくめて見てみたら、どっちかというと失恋を歌い込んだもののほうが多いはず。想いが実っているようなハッピーなウキウキ恋愛歌は少ないんですね。

 

ところが、エラとサッチモが歌っているのを聴くと、そんなつらい感触などぜんぜんありません。あたたかく(夏なら涼しく)空調の効いた居心地のいい部屋のなかで、ロッキン・チェアにすわりながらくつろいで、ゆっくりと楽しんでいるような、そんなフィーリングで全体が統一されていますよね。これはたぶんかなり驚くべきことだと思うんです。どんな歌をやってもハッピー&メロウに聴かせる二名の歌手の実力の高さということですよ。

 

伴奏もそんな雰囲気に沿って実にいい感じのなめらかさじゃないですか。デッカ・シングル音源ではオーケストラですけど、『エラ・アンド・ルイ』『同アゲン』パートで伴奏をつとめるのはオスカー・ピータースン・カルテット。オスカーのピアノのほか、ハーブ・エリス(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)、バディ・リッチ or ルイ・ベルスン(ドラムス)。

 

彼ら四名の伴奏ぶりも、熟達の腕前とはまさにこのことだというようななめらかさじゃないですか。四人とも決して目立たず、弾きすぎず、地味に地味に歌伴に徹していますが、ここぞというツボだけを着実におさえていくような、そんな名人芸をここに聴きとれます。どこでどんな音をどんなタイミングで置けば、エラやサッチモの歌(やトランペット)が最高度に輝いて聴こえるか知り尽くしている演奏家たちの、まさにプロの仕事です。

 

そんな円熟の極みのような伴奏に支えられ、フロントで歌う二名もつとめてムードを出すように、このシルキーな音楽をなめらかに表現するように、きれいにきれいに歌っています。これはしかし、決して甘い世界というわけじゃありません。伴奏者たちもエラもサッチモも、このなめらかできれいで白鳥のようなスムース音楽表現の水面下では、必死で水かきしている努力がうかがえますよね。

 

しかし表面的にはそれを絶対に見せないっていう、それがプロというものでしょう。演奏も歌も、最高のプロフェッショナルたちが揃って、失恋歌をかなり多くふくむラヴ・ソングの数々を、あくまでどこまでもやさしくやわらかく、メルティ&メロウに徹して創りあげた結果が、『チーク・トゥ・チーク』で聴けるシルキー・ハピネスなんですね。

 

まったく感服するしかない世界ですが、しかしふだんは聴いていてそんな考えにもおよびません。ただただ、この聴こえてくる楽しく幸せな音楽の世界に身も心もひたして、部屋のなかでゆっくりくつろいで 、日常の、人生の、細々したいやなこと、つらいことを忘れていくだけです。プロがプロの技に徹して届けてくれる音楽の最高娯楽、それが『チーク・トゥ・チーク』なんですね。

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