シンプルでたおやかな歌謡サンバ 〜 ジュレーマ・ペサーニャ
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ブラジルのサンバ歌手ジュレーマ・ペサーニャ。それなりにキャリアのあるひとらしく、いまや中堅どころといった存在なのでしょうか。ぼくは最近までぜんぜん知りませんでした。今年の新作『リーニャ・ジ・フレンチ』(2019.7.5)は、こじんまりした地味な作品ですけど、なかなか充実している良作じゃないかと思います。最大の特色は、伴奏がかなり小編成であるというところ。うっす〜いとすら感じるほどのミニマム編成の伴奏なんですね。
アルバム全体を聴くと、ジュレーマがやっているのはエスコーラ系の伝統サンバで、なおかつそれにつきものの大きめのバンドや大きなコーラスなどを排し極力シンプルにして、自身の単独ヴォーカルだけにフォーカスしようとしたっていう、そんな内容のアルバムじゃないでしょうか。歌にはなかなか味のあるひとで、実力もじゅうぶん安定的、いい仕上がりのアルバムとなりました。
まず1曲目「Rabo de Saia」はフルートの音とともに伝統的なサンバ・スタイルではじまりますが、この曲ではゲスト男声ヴォーカリストがいます。それがどうやらモナルコらしいんですね。でもここでのモナルコの参加は特別どうってことはないような気がします。たしかに存在感のある声で見事ですが、アルバム全体の色調に影響は与えていないですね。
こういったものよりもこのアルバムで印象に残るのは、たとえば2曲目「Força Estranha」でも、かなりの時間、ギターとパーカッションそれぞれ一台づつだけの伴奏でジュレーマが単独で歌っているでしょう、そういうところです。きわめて質素でシンプルなサウンドなんですけど、あたかもサンバが映し出す日常風景の、そのとりたてて変化のない淡々とした様子をそのまま反映したような、そんなしっとり淡白感がありますよね。だからこそ、サンバ=人生だと感じてしまうようなリアリティがこのジュレーマの歌にはあるんだと思います。
そういった、淡々とした日常をそのまま切りとったような淡々としたサンバ・サウンドは、このアルバムではだいたいどの曲でもずっと一貫しているんですね。特筆すべきできばえだと感じるのは、アルバム・タイトル曲の4「Linha de Frente」(サウダージ横溢)、やや北東部っぽい感じの5「Mulé DIreita」、泥くさく跳ねるリズムの8「Rara Beleza」(打楽器だけ伴奏のパートあり)などですが、なんど聴いてもグッと胸に迫るのが7曲目の「A Beleza, o Samba e o Caos」ですね。
特にこの7曲目ではハーモニカが使われていますよね。その切ないサウンドでのオブリガートが実にたまらないいい味を出しているなと思うんです。この曲の伴奏はハーモニカ、ギター、パーカッションだけ。やっぱりこういったシンプルで素朴であっさりした薄味サウンドに乗って、ジュレーマがこれまた淡々と綴るのがいいんですよね。特に激しさもなく、感情をたかぶらせることも切ない味を強調することもなく、ジュレーマは素朴に素直にストレートに歌っているだけです。同様の伴奏とあわせ、これぞ人生を映した真実の歌だと、そう思わせる説得力のある音楽じゃないでしょうか。
(written 2019.9.5)
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