曲の長さを把握することは重要
レンタル・レコード・ショップ全盛のころ、そう、いつごろでしたっけ、1970年代末〜80年代前半あたり?忘れましたが、多くのひとがレンタル・ショップで借りてカセット・テープにダビングしちゃうのでレコード買わなくなって(本当にそうだったのか、個人的な実感はないのですが)、レコードの売り上げが落ちていた時期がありましたね(本当に?)。CD メディア登場前夜あたりの話でしょうか。
それでレコード会社側のレンタル対策の一環として(ほかにもいくつかあったけど)レコードのパッケージやライナーノーツなどに曲の長さを記載しなくなっていたことがありました。この時期に日本のレコードを買っていたみなさんであればご記憶のことでしょう。聴いてみるまで曲の長さがわからなければ、何分カセットを買ったらいいかわからなくなるであろうみたいなことだったんでしょうか。
実際それでレンタル対策になったかどうかもわからないんですけど、LP レコードで収録曲の長さをいっさい書かないということには、レンタルなどしないであろうリスナーとかプロ評論家のみなさんがかなり反発していました。ぼくが記憶しているのは『スイングジャーナル』誌に載った油井正一さんの文章です。いわく「音楽を楽しむのに曲の長さを知っておくことはたいへん重要なんです」とか、そんな意味のことが書いてあったように思います。
つまりですね、こういったことはいまの配信全盛時代やその前の CD 時代に音楽を聴くようになったみなさんには理解しにくい事情だと思うんです。配信だともちろん曲の長さが表示されますし、CD だって書いてなくともプレイヤーに入れたら即時にわかりますもんね。レコード会社もバカバカしくなって、CD の時代になったら(レンタル対策で)曲の長さを書かないなんてことはやめました。無意味ですから。
だからこんな問題はアナログ・レコードの世界でしかありえない問題なんですね。そして、油井さんのおっしゃったように、一曲一曲それぞれ何分何秒の長さなのかを知っておくことは、そのアルバムを楽しむ上で必須の情報であるようにぼくも思っていたし、いまも同様に考えています。これをわかりやすく論理的に説明するのはむずかしいんですけど、間違いない実感です。
一曲全体で、たとえば25分の曲の、いま聴いているのは何分目あたりであるということを常に把握しながら聴き進むということは、その曲の姿とかありようや演唱状況を把握するのにとっても重要じゃありませんか。もしこの情報がなかったら、という状況を想像してみてください、まるで五里霧中でさまようような感じになってしまうと思いますよ。もちろん、体感できる部分もあるのですけど。
アルバム全体でも、何分の曲と何分の曲がどれだけの数並んでいるかみたいなことを知っておかないと、いったいどんな構造のアルバムなのか把握がむずかしいように思うんですね。違いますか?曲の長さ、アルバム全体の長さといったことは、曲名やパーソネルや録音データとあわせ、音楽を楽しむ上で必要不可欠なデータでしょう。
そんな大切な情報を、一時期だけのこととはいえ、日本のレコード会社は隠してぼくらに与えようとしなかったんですよ。あのころ、みんな不満をいだいていましたよねえ。だから、油井さんのようなかたの寄稿は、まさにぼくらの気持ちを代弁してくれていたなと感じたんですね。みなさん、当時はどうなさっていたでしょう?買ったレコードでもカセット・テープにダビングする癖のあった(のはステレオ装置のない自室のラジカセで聴きたいがため)ぼくは、まず第一回目に聴くときに時計を見ながら時間を計っていました。それで何分カセットを使ったらいいか判断していたんです。
こんなこと諸々、CD が登場しプレイヤーに入れたら即座にアルバムや曲の長さがわかるようになって無意味になりましたから、レコード会社もムダな抵抗をしなくなったのかと思いきや、今度は iTunes など音楽アプリの登場でカンタンに CD をコピー(リッピング)できることとなり、今度はその対策でコピー・コントロール CD(CCCD)なる欠陥品が幅を利かせていた時期だってありました。いまやそれも消えたように思いますけどね。
(written 2019.10.4)
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