おだやかで静かなマダール・アンサンブル
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ジャケットがいいでしょ。マダール・アンサンブルはパレスチナ人ウード奏者とオランダ人ベーシストを中心に、クラリネット(オランダ)、ヴィオラ・ダモーレ(チュニジア)、パーカッション(ヨルダン)を加えた五人組のバンドというかユニット?プロジェクト?たぶんヨーロッパのどこかで活動しているんだと思いますが、ともかく作品はまだ今年リリースのアルバム『アカマール』(2019.5.10)一枚だけです。
しかしその『アカマール』のことをぼくは気に入ってしまったんですね。民族的な音楽要素を土台にしつつジャズ/ネオ・クラシックみたいな展開を聴かせるのは、たとえばブラジルやアルゼンチンにも、特にアルゼンチンにかな、たくさんあると思うんですけど、マダール・アンサンブルのばあいは、そのフォーク・ベースが中近東にあるんだと聴こえます。だからやっぱりウード担当のパレスチナ人ニザール・ロハーナが中心人物でしょうね。
中近東地域のアラブ歌謡を聴き慣れている耳であれば、完全インストルメンタル音楽を展開するマダール・アンサンブルのなかにも同様の旋律の動きを聴きとることができるはずです。旋法も同様のものを使っていますしね。しかしときおりそこから離れてフリーなインプロヴィゼイションを展開する時間もあったりなど。即興は決して熱く激しく盛り上がったりはせず、淡々としておだやかで静かなこのユニットの音楽性をどこまでも維持しているんですね。
即興と書きましたが、しかしこのマダール・アンサンブルの音楽は、かなりな部分記譜されているものだろうと推測できますね。ウード、クラリネット、ベース、あるいはそこにヴィオラ・ダモーレも参加したりしてアンサンブルを奏でていたりする部分は、アド・リブでは実現不可能なもののように思えるからです。記譜済みアンサンブル部分のほうが、どっちかというとこのユニットの音楽の大きな部分を占めているんじゃないでしょうか。
ウードやベースよりも、クラリネットは音も鮮明で大きいですから、目立つといえば目立ちます。オランダ人らしいんですけど、そのクラリネット奏者がソロを吹いている時間にはアラブ色はほぼなしですね。クラシックとか西欧ジャズだとかに近い内容に聴こえます。しかしそれだけじゃないでしょうか。ほかはソロもアンサンブルもアラブ・フォーク・ルーツに根ざしているのは間違いないですよね。
マダール・アンサンブルの特色は、そんな民族色を濃ゆい表現にはせずに、どこまでも西洋的に洗練された、おだやかで静かで落ち着いて美しい、まるで夜のしじまにゆったりと漂っているかのような、そんな風景を見せているところです。決して熱情的にはならず、あくまでクール。そこがこのユニットの、このアルバムの音楽の、魅力じゃないでしょうか。
だからじっくりと腰を据えて聴き込むというのもいいけれども、それよりも、ちょっとしたナイト・タイムの BGM なんかとして最高にいい雰囲気をつくってくれる作品だなと思いますよ。ちょっと暗いっていうか陰鬱、ダウナー(で、やや幻滅するように退廃的?)な音楽なので、気分を選びますけどね。
(written 2019.9.2)
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