エチオ歌謡と抑制された哀感 〜アスター・アウェケ
https://open.spotify.com/album/4EqwBVCtN2frEGyZ7vPVxn?si=wr9vHLJcTUaUUHDSc67EZg
bunboni さんの紹介で知りました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2019-09-18
エチオピア歌謡は、日本の演歌、民謡に近いというのがだいたいみなさん感じているところだろうと思うんですけど(だって、どう聴いたって、ねえ)、といってもぼくはエチオピア音楽のことをなにも知りません。いままでにチラッと聴いてきた数枚でそう感じているだけです。ともあれ、またそれを実感する一枚が出ました。アスター・アウェケの新作『Ćhewa』です。
この独特の哀感、それを表現するアスターの繊細なこぶしまわし、高音部で微妙に揺れるというか震えるようなヴィブラートなど、実に演歌っぽいですよね。曲の旋律のつくりそのものがそもそも近いのじゃないかと思いますが(音階が共通している)、アスターの今回の新作のばあいは哀感の表現がうまくコントロールされている、抑制が効いているというのも好感度大ですね。
声の出しかたも、決して張りすぎずやわらかくそっと、しかし伸びのある強い声をしっかりと、でもソフトに出して、フレーズの表情のつけかたも緩急自在、豊富な陰影で聴き手をトリコにする魅力にあふれています。エチオ歌謡をほとんど聴いたことのないぼくですら、一回聴いてはまってしまったんですから、エチオ云々を言わなくても普遍的な魅力があるっていうことです。
『Ćhewa』でも情感豊かな、しかしその表現に抑制の聴いた聴かせる歌が並んでいますが、バックの伴奏もうまくコントロールされた控えめなものであることも成功の一因かと思います。1曲目から大好きなんですが、特にぼくがグッと来るのは3曲目の「Tiwsta」ですね。出だしのピアノ・サウンドが好きなんですが、歌がはじまってからもこの情感を抑えた繊細な表現にうなります。サックスのオブリガートもいいなあ。
アルバム中ちょっと異質なのは、7〜9曲目のブルージー・セクションでしょうか。これら三曲だけ、前後の情け深い哀感とはやや異なったフィーリングを出しているように聴こえます。特に8曲目「Ethiopia」、9曲目「Efoy」ではやや不気味なサウンドも聴かれ、ポリリズミックな展開とあいまって、不穏な空気をかもしだしていますね。ぼくはかなり好きな三曲パートです。
なんにせよ、エチオ歌謡ってこんなにも演歌好き日本人の感情にフィットするんだなあというのをあらためて強く実感したアスター・アウェケの『Ćhewa』でした。アフリカ音楽とかワールド・ミュージックとかに特に興味のない一般の日本人音楽好きにも聴いてみていただきたいですね。
(written 2019.9.20)
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