秋の夜長に 〜 ブルチュ・イルディス
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トルコのハルク歌手ということなんですけど、Burcu Yildiz というこの名前はどう読めばいいのでしょう、ブルチュ・イルディス?とりあえずそういうことにしておきましょう。2019年の(たぶん)デビュー・アルバム『O Günler』がなかなかいいですよ。しっとりしていて落ち着けて、これからの秋にはピッタリの内容じゃないでしょうか。
このアルバムの編成の基本は、アクースティック・ギター+ベース(ときにエレキ)+ドラムスで、これを中心とし曲ごとにゲスト参加のミュージシャンがかわるといった具合。どんな楽器がゲスト参加しているかは本当に曲によってさまざまで、ウードだったりネイだったりストリングスだったり管楽器バンドだったりで、そこに一貫性みたいなものはあまりないみたいです。
1曲目「Suskun」でギター・トリオの演奏にウード(アラ・ディンクジアン)がくわわってフォーキーな演奏をはじめ、そこにブルチュのヴォーカルがしっとりとからんでいくあたりから、すでに引き込まれてしまいますよね。実にいい雰囲気じゃないでしょうか。演奏も歌も決して派手に盛り上がらず、ずっと一定の落ち着いたムードをたたえたまま進みますが、そんなところもいい感じです。
2曲目のゲストはたぶんチェロ奏者でしょうか。ここではリズムがやや快活、というほどでもないんですけどこのアルバムのなかでは目立つほうでしょう。途中からやや劇的なストリングスも入ります。それに乗ってブルチュのヴォーカルにもすこし力が入っているような。ドラマーもリム・ショットで派手にやります。こういうのもありですね。
3曲目の管楽器隊はちょっとバルカンブラスみたいで、だから曲全体もやや東欧的な感じがします。リズムも2曲目よりもっと派手になって、ぐるぐる回転するようなにぎやかなものですよね。バック・ヴォーカルが聴こえますが、これはブルチュの多重録音の可能性があると思います。こんなにぎやかな3曲目はこのアルバムではやや例外的かもしれません。やや大道芸的な音楽?
しかし4曲目以後はふたたび1曲目同様のしっとり落ち着いたハルク路線に戻って、秋の夜長をうるおしてくれますよ。夜長などといってもこのアルバムはたったの33分しかありませんけどね。4曲目ではネイやクラリネットがゲストの模様。哀しげ&切なげな演奏と歌の雰囲気でこの曲も貫かれています。でもドラマーは背後でけっこうやってますねえ。
5曲目以後もずっとそんな暗くしっとりした陰なムードが一貫しているんですが、ブルチュのヴォーカルは開放的な発声をしていて好感が持てますね。しっとり感を維持しつつ伸びやかさを保っています。アルバム・タイトルになっている5曲目はウードとギターのデュオ演奏で歌い、6曲目はストリングス+ホーンズ入り。ここでもホーンズがちょっぴり東欧的に聴こえますけど、トルコと地理的に近いせいなんでしょうか。6曲目は若干ドラマティックに盛り上がるかもしれません。
ウードのアラ・ディンクジアンと男性歌手オニク・ディンクジアンをゲストに迎えた7曲目はウード+ギター・トリオだけの伴奏でどこまでもしっとりと。これを経てアルバム・ラスト8曲目ではアラのウード一台の伴奏だけでブルチュが歌っています。7、8曲目ではブルチュの声の美しさがきわだっていて、特筆すべきできばえですね。ウードだけで歌う8曲目なんか実にすばらしく、個人的にこのアルバムのベスト・トラックです。
(written 2019.9.18)
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