ジョニー・ホッジズの至芸 〜『ホッジ・ポッジ』
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ぜんぶで六枚ある「エピック・イン・ジャズ」のシリーズ。いままでに四枚をそれぞれとりあげて書きました。このシリーズは LP レコードでエピック(コロンビア系)から第二次大戦後に発売されたものですけど、中身はすべて戦前の SP レコードで発売された音源です。一枚づつ(ほぼ)すべてひとりのジャズ・マンに焦点を当て、そのひとをフィーチャーした録音集となっているわけです。くどいようですが中身の音源は一曲単位の古い SP 音源です。
それで、まだとりあげていないものはジョニー・ホッジズの『ホッジ・ポッジ』と『ザ・デュークス・メン』だけということになりました。後者はひとりのジャズ・マンにフォーカスしたものではない異色の一枚で、しかもかなりの名作ですから最後にとっておくことにして、今日はジョニー・ホッジズ名義の『ホッジ・ポッジ』のことをちょこっと書いておきましょう。
<名義>と書きましたが、実際、『ホッジ・ポッジ』に収録されている全16曲の SP 音源も当時からホッジズ名義のレコードだったものですけど、一聴してわかるようにこれは実質デューク・エリントンがリーダーシップをとったセッション音源なんですね。1936〜41年にかけて、コロンビア系レーベルに、エリントンは自楽団のピック・アップ・メンバーで構成されるコンボで、しかも名目のリーダーはそれぞれのサイド・メン名義で録音しています。SP も当時発売されました。
『ザ・デュークス・メン』もそんな音源集なのですが、今日は『ホッジ・ポッジ』の話。このアルバムのばあい、録音は1938/39年。ジョニー・ホッジズはもちろん、やはりクーティ・ウィリアムズ、ローレンス・ブラウン、ハリー・カーニー、ソニー・グリーアなど、セッションを行なったメンツは全員当時のエリントン楽団員。もちろん御大デュークもピアノで参加しているばかりでなく、作編曲もこなしていますので、ホッジズ名義といえど、どうしたってエリントン・サウンドに聴こえてしまうというわけなんです。
それでもいちおうはホッジズ名義のセッション&レコードでしたので、やはりホッジズがいちばん多くソロを吹いているのは間違いありません。そんなわけでエリントニアン・コンボにおけるホッジズの特長がよくわかる一枚といえましょう。また『ホッジ・ポッジ』ならではのこととして、ホッジズがアルトではなくソプラノ・サックスをたくさん吹いているということもあげられますね。
アルバムに四曲収録されているそんなホッジズのソプラノ吹奏を聴きますと、彼がいかにシドニー・ベシェ直系であったかよくわかります。実際、キャリア初期はソプラノ・サックスからはじめたホッジズの直接の師匠にして最大の影響源がベシェだったんですね。その後ホッジズはその影響をアルトに移植したとでもいうようなスタイルを確立し、ジャズ・アルト界の No. 1的存在となりました。
特にこのアルバムにおけるホッジズのソプラノ吹奏の見事さを示すものとして、5曲目の「アイム・イン・アナザー・ワールド」をあげておきたいと思います。どうです、この美しさ。アルトを吹くときのホッジズの美はみなさんご存知でしょうけど、そのルーツはこういったシドニー・ベシェからもらった豊穣な表現にあるのです。
https://www.youtube.com/watch?v=74x7B1f9QOI
アルトのほうでいいますと、このアルバムでは、ぼくはいつも13曲目の「フィネス」に感動のためいきをもらしてしまいます。なんて美しいのでしょうか。この「フィネス」というデュークの曲は、かのジャンゴ・ラインハルトがエリントニアンたちとパリでやったセッションでも演奏されていてそれも極上ですけど、『ホッジ・ポッジ』のものは、なんと実質デュークのピアノとホッジズのアルトだけのデュオ演奏なんですね。
https://www.youtube.com/watch?v=f4l9veZJjeI
ああ、なんてきれいな世界なのでしょうか。ジャズにもいろんなものがありますが、こういったバラードにおけるアルト・サックスの嫋嫋たる表現でホッジズの上をいく存在は、いまだ出現していないと断言できます。かのチャーリー・パーカーですら敗北を認めていたんですから。パーカーのサウンドも丸いですが(硬質だけど)、ホッジズのこのなめらかでやわらかくとことん丸い色艶に勝るものではありませんね。
(written 2019.10.5)
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