イナタいジャズ・オルガン 〜 ベイビー・フェイス・ウィレット
https://open.spotify.com/album/5eaTwFVFo3DLYwcD7cHCPu?si=emPmzynYRH-UI08BgGJEuQ
これは偶然の出会いでした。ブルー・ノート公式の、とある配信プレイリストを流していて、おっ、これいいじゃん!だれ?ってなったんですね。それがベイビー・フェイス・ウィレットの『フェイス・トゥ・フェイス』(1961)収録の「ゴーイン・ダウン」。スロー・ブルーズなんですけど、いやあ、なんてイナタいんでしょうか。あんまりジャズの形容にイナタいってことば使わないでしょうけど、思わずそう言いたくなりますね。
その「ゴーイン・ダウン」でもそうですけど、このアルバムのメンツはカルテット。ギターのグラント・グリーンだけがぼくの知っていたひとで、ほかのボスのオルガン、テナー・サックス、ドラムスともに無知にして知りませんでした。でも、アルバムを聴くと四人ともなかなかの実力者だとわかります。1961年ですから、アメリカにはこれくらいのジャズ・メンはごろごろいたということでしょうね。
とにかく2曲目の「ゴーイン・ダウン」の印象があまりにも強いんですけど、これ、1961年のハード・バップ・ナンバーというにしてはかなりくっさ〜くブルージーですよねえ。ジャズ・ナンバーというよりもリズム&ブルーズ・インストと呼んだほうが適切かと思うくらいです。61年当時で言えばファンキーということばで形容できるいちスタイルでしょうね。
だからほかにもいっぱいあったのはたしかですし、さらにオルガンだからいっそうイナタく聴こえるということもあるでしょう。テナー・サックスのひとは知らないんですけど、ギターのグラント・グリーンもまたブラック・ルーツに根ざしたアーシーな演奏を得意とする人物なんで、だから「ゴーイン・ダウン」みたいなこんなフィーリングにはぴったりの好人材ですよね。
「ゴーイン・ダウン」がジャズというよりリズム&ブルーズ・フィールに近いなと思うのは、曲のリズムのおかげもあります。ハチロク(6/8拍子)の三連ですよね。それもファンキー・ジャズのスロー・ナンバーのなかにはけっこうあるとはいえ、この「スロー・ダウン」ほど見事にくさく決まっているものはなかなかないですよ。曲はベイビー・フェイス・ウィレットの自作ですから(このアルバム収録曲はほぼぜんぶそう)、こんな持ち味のひとなのかもしれないですね。
そのベイビー・フェイス・ウィレットのオルガンも、「ゴーイン・ダウン」ではハモンド・オルガンの特徴を最大限にまで活かしてグリグリやっているのがぼくには快感です。フレイジングもファンキーさ、アーシーさ、ブルージーさ満点。ボスのソロは二回出ますけど、どっちも最高ですね。あいだに入るテナー・サックス・ソロもギター・ソロも、これでもかとばかり下世話に盛り立てて、言うことなしですよ。
こんなにもイナタい「ゴーイン・ダウン」が2曲目にあるもんで、アルバムのほかの収録曲がかすんでしまいますが、でも本当はなかなか悪くないです。一聴、ふつうのメイン・ストリームなハード・バップのオルガン・カルテット演奏かと思わせておいて、実は4/4ビートの底に8ビート・シャッフルの感覚を持っていますよね、数曲で。テーマ部でラテン調になる他作曲の「ワットエヴァー・ローラ・ワンツ」もあって楽しいし、だれも言及しない隠れた作品のような気がしますが(ぼくだって知らなかった)、『フェイス・トゥ・フェイス』っていいアルバムですね。
ハード・バップ全盛期にはこんなのが山ほどあったんでしょう。
(written 2019.10.23)
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