「私は(北米も中南米も)アメリカという一つの大陸として見ている」 〜 ガビー・モレーノ&ヴァン・ダイク・パークス
https://open.spotify.com/album/5fJPmkm2zrCmEFyxkADcri?si=dpijWLVvTkaAaoJc4dfRdw
うわあ、これはかなりの傑作ですね、『スパングルド!』(2019)。グアテマラ人歌手ガビー・モレーノとアメリカ合衆国のヴァン・ダイク・パークスのコラボレイション・アルバムです。ガビーもヴァン・ダイクも、いまはロス・アンジェルスで活動していますよね。そこにいながらにして、中南北を俯瞰したような汎アメリカン・ミュージックをこの作品では指向したと言えます。
この『スパングルド!』でぼくがいちばん感動したのはヴァン・ダイクのアレンジですね。実に見事なオーケストレイションじゃないでしょうか。ガビーも素直な発声できれいにスムースに歌っていて、好感が持てます。ガビーのヴォーカルには特にこう、ひっかかりというか、大きな強い特色みたいなものがないと思うんですけど、そのナチュラルさがこのアルバムではかえって楽曲やアルバム全体での普遍性をきわだたせることになっていて、大成功です。
そんなガビーとヴァン・ダイクがたぶん共同で曲を選んでいったんんじゃないかと思いますが、楽曲はアメリカ合衆国のものもあれば中南米のものもあって、わりとまんべんなくチョイスされているなといった印象です。英語圏の歌は英語で、ラテン系の曲はスペイン語かポルトガル語でガビーは歌っていますね。グアテマラの歌手だからといって、ラテン系楽曲ばかりにはしたくなかったとのガビーのことばがありますが、汎アメリカ性みたいなことに配慮した結果なのでしょう。
さらに、楽曲の選択もさることながら、このアルバムに統一感をもたらしているのは、なんといってもヴァン・ダイクのオーケストレイションでしょう。北米の曲も中南米の曲も自然な感じでスーッとつながるように、なんというかラテン系の曲でもエキゾティズムや国の音楽アイデンティティを出さず、極力それは消して、スムースにというか <アメリカの>音楽として一つに聴こえるよう、アレンジに腐心したのがうかがえます。
そんなヴァン・ダイクの尽力のおかげで、『スパングルド!』を聴いているぼくは、どの曲がどこの国のものだみたいなことをほとんど意識せず、アルバム全体をひとつながりのものとしてスーッとスムースに聴けるんですね。じっくりたどってみると多様な曲が並んでいるのに、どの曲も同じ<アメリカ>の音楽に聴こえるからすごいです。ガビーとヴァン・ダイクがつとめてそうなるようにしたというのがわかります。
そんな<アメリカ>とは、だから実はどこにもないものです。架空のというか仮想のもの、ファンタジーですよね。でも音楽の世界では、南中北アメリカ一体となった統一感、一体感をガビーとヴァン・ダイクは表現することに成功していて、それこそがこのアルバムの勝利であり、実は国境なんかないんだよ、そんなもの越えていこう、ひとつになろう、というのがこのアルバムの意図なんじゃないかなと思えてきます。
ってことは、いまガビーもアメリカ合衆国に住んでいるわけですし、この国の大統領が実行している国境分断政策やらといった政情に強くアピールする色濃い時事性、政治性をも帯びた作品であるとも言えますね。トランプ時代になって、音楽の世界でもライ・クーダーやメイヴィス・ステイプルズなど、音楽を使った発言が増えていますが、ガビーとヴァン・ダイクの『スパングルド!』もまたそんなひとつと言えましょう。
(written 2019.10.17)
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