クラシック・ロックは金持ち中高年の愛玩品となったのか?
大きなボックス・セットばかり出るのはもういいかげんウンザリなんです、クラシック・ロック界。ビートルズにしたって今2019年は『アビイ・ロード』50周年記念ということで、数枚組サイズのでかい、つまり価格も高いボックスがリリースされました。ぼくはもはやおつきあいする気が失せていますので、Spotify で聴いて済ませています。CD を買う気はまったくなし。
ビートルズは昨年も『ワイト・アルバム』の50周年記念ボックスがありましたよね(来年は『レット・イット・ビー』の箱が出る?)。そこまではぼくも買っていたんですけど、もうなんか、古い(評価の定まった)ロック・ミュージシャンの再発ものって、こんなのばっかりになりましたよね、最近。いつごろからでしたっけ?10年くらいはこんな状態が続いていると思います。
だからもちろんビートルズだけでなく、エルヴィス・プレスリーをはじめとして1950/60/70年代に活躍したロック・ミュージシャン、バンドの再発ものはぜんぶそう。高価なボックスものばかりになって、それがまたどんどん次から次へと出るもんですから、ぼくなんかもう完全に息切れしていてギヴ・アップ状態なんですね。
ひとつには経済的事情もあります。お金をどんどん使うのはわさみん(岩佐美咲ちゃん)関係でということになりました。わさみん歌唱イベントがぼくの日帰りできる地元で開催されるなんてことはないので、生歌を聴きに会いに行くばあいは必ず往復の交通費とホテル代が必要です。その上イベント現場にいけば握手券目当てでどんどん CD を買うので、だからお金がかかるんですね。
わさみん関係でお金をどんどん使うようになりましたので、そのほかのことはなるべく緊縮財政でいかないとお財布が持ちません。クラシック・ロックではないほかの音楽の新作 CD やリイシューものだって(特に Spotify で聴けないばあいは)買いたいのに、内容がほぼ知れている古いロック・ミュージシャンの大部なボックスなんて遠慮しちゃうんですよ。万円単位がふつうですもん。
もうひとつ、ロックでもなんでもそうですけど大衆音楽は身近で親しみやすい、近づきやすいという点が大きなメリットで、もともとが金持ち特権階級の趣味だったクラシック音楽なんかとはそこが根本的に違うのに、一巻数万円もするような高価なボックス・セットをどんどん売るという商売はいったいどうなんだ?という大きな疑問だってあるんですよね。
なかでも特にロック・ミュージックは庶民性、卑近さがウリだったはずでしょう。近付きがたい高貴な人物が特別なことをやっているんじゃなくて、そこらへんの近所のおにいちゃんたちが安い楽器を持ってわかりやすいことをやっているという、なんというか原初的動機がロックのばあいとても大きなものでした。ボブ・ディランだってビートルズだってローリング・ストーンズだって、もともとはそんな連中でした。
彼らが現役で大活躍していた(ディランとストーンズはいまだ現役だけど)時代に青春時代を過ごし、知って聴くようになってファンになった世代が、いまちょうど還暦ちょい(だいぶ?)過ぎあたりになると思うんですよね。若い時分にはお金がなくて、一枚のレコードを舐め尽くすようにくりかえし味わっていたそんなみなさんもすっかりエスタブリッシュメントになって、お金と生活にゆとりができるようになっているかもしれません。
レコード会社はそんな世代を狙い撃ちしているんですよね。一巻で軽く一万円を超えるような大くて高価なクラシック・ロックのボックス・セットを、後追いで彼らを知った若いファンが買っているとはあまり思えません。なかには買っているひともいるでしょうが、そんなボックス・セット購買層の大半が50歳過ぎの中高年に違いありません。
つまり要するにぼくの言いたいことは、ロック・ミュージックの存在理由・価値観が薄れているんじゃないかと思うわけですよ。失せてはいなくても確実に変質はしています。大部なボックス・セットの相次ぐ発売に象徴されるように、1970年代くらいまでのクラシック・ロックは、いまや金持ち中高年層のための趣味となってしまいました。そこにヤング・ジェネレイションや若くてナイーヴな感性が共感できるような内容はもうないんです。
(written 2019.10.22)
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