痛快なヴァイブラフォン・ジャズ 〜 ボビー・ハッチャースン『ハプニングズ』
https://open.spotify.com/album/4TbWPn2fJUrQc924iTylFi?si=rG4F2ntHS6uh6T7EsLOCVg
ボビー・ハッチャースンのアルバム『ハプニングズ』(1966年録音67年発売)。これを最近聴きなおすきっかけがありました。それは、とあるブルー・ノート公式配信プレイリストを流していて、ふとこのアルバムからの「ヘッド・スタート」が来たんですね。それがカッコよくって。こんなに痛快なメインストリーム・ジャズだっけ?と自分の記憶のあやふやさがなさけなくなりました。それでアルバムを聴きかえしてみたわけなんです。
ボビーの『ハプニングズ』、メンバーはボスのヴァイブラフォン、ハービー・ハンコックのピアノ、ボブ・クランショウのベース、ジョー・チェインバーズのドラムスですが、アルバム・ラスト7曲目の「ジ・オーメン」だけは担当楽器がいろいろと入れ替わっています。音楽としてもかなり感じの異なるものだから、今日の話題からは外してもいいでしょう。注目は当時マイルズ ・デイヴィス・クインテットで活躍中だったハービーの参加でしょうか。
ハービーの曲「処女航海」もやっているし、だから『ハプニングズ』も当時のいわゆる新主流派、いまでいうポスト・バップの一枚と位置付けられるでしょう。実際、聴いてそんな印象がありますよね。上で書きましたようにぼくが再注目したのは、ふと流れきた「ヘッド・スタート」があまりにもカッコイイということでしたし、アルバムを聴いてもこの印象は変わりません。
「ヘッド・スタート」はメインストリームの4/4拍子で会心の走りを聴かせるアップ・ビート・ナンバー。こ〜れがもう最高に気持ちいいじゃありませんか。個人的にはボビーやハービーもいいけどそれよりも、ジョー・チェインバーズのこのドラミングが大好きですね。なんらスペシャルなことはやっていませんが、爽快痛快で、聴いていて快感ですよ、この4ビート・ラニング。この「ヘッド・スタート」がどうしてアルバム・オープナーじゃないのかと思うほど。
現実にアルバムの幕開けとなっている1曲目「アクエイリアン・ムーン」も、もちろん痛快に走るアップ・ビーターですが、「ヘッド・スタート」みたいに一直線ではなく、リズムにやや工夫がされていますよね。新傾向のジャズとしてはこっちのほうがおもしろがられそうな気はします、1967年当時であればですね。ハーモニー的にも斬新だし、特にハービーのソロ、バッキングともに興味深いフレーズです。
アルバム『ハプニングズ』全体で爽快に走るアップ・テンポな4ビート・ナンバーはこれら二曲だけと、やや意外な感じもします。それは「ヘッド・スタート」のメインストリーマーな感じで惚れなおしたぼくだけの特異な感想でしょうか。3曲目の「ロホ」は曲題どおりラテン・ナンバーで、しかし曲じたいはスペイン系ではなくボサ・ノーヴァふうですね。ジョー・チェインバーズがリム・ショットも多用しながらそんなドラミングをやっています。これも好印象。ジャケットが紅色で塗られていますけど、この曲(「赤」の意)と関係あるんでしょうか?
「処女航海」も、いま聴きなおしてみれば各人のソロとも(特にボビー)充実しているし、バラードな6曲目「ウェン・ユー・アー・ニア」の哀感あふれるプレイぶりも見事。ヴァイブラフォンって、いろんな楽器のなかでもこういったサウダージをかなりうまく表現できる音色を持っているなあと思うのはぼくだけでしょうか。
特別とりたてて傑作というほどのアルバムじゃないでしょうけど、ヴァイブラフォンが好きで、奇を衒わないメインストリームなモダン・ジャズをちょっとなにか、というときには格好の好盤です。
(written 2019.10.29)
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