アート・ブレイキー生誕100周年にあたり
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ついこないだ、10月の10日すぎにアート・ブレイキー生誕100周年になったということで、ブルー・ノート・レコーズの公式 Twitter がなにか称賛のことばを送っていました。そうです、ブレイキーと、ジャズ・メッセンジャーズはまさにブルー・ノートの鼓動を打つ心臓みたいなものでしたもんね。そして生誕100年記念でブルー・ノートは "Art Blakey : The Finest" というストリーミング・プレイリストを公開したんです。
そのプレイリスト1、2曲目が予想どおり1954年のバードランド・ライヴ幕開けでして、ピー・ウィー・マーケットのイントロダクションと「スプリット・キック」をひさしぶりに聴きかえしたんですね。そうしたら、これ、完璧なワン・ナンバーじゃないかということに気がついちゃいました。しかも爽快ですし。いやあ、ここまですばらしい一曲だったとは、むかしから知っていたつもりでしたが認識をあらたにしたんですね。
それでブレイキーの『バードランドの夜 Vol. 1』を丸ごと聴きかえしました。やっぱりなんど聴いてもオープニングの「スプリット・キック」(ホレス・シルヴァー)が完璧だとしか思えないですよねえ。しかもブレイキーのドラミングだって非の打ちどころが一分もないですよ。テーマ合奏部〜三人のソロ〜ルー・ドナルドスン&クリフォード・ブラウンのかけあい〜ブレイキーのソロ〜最終テーマ合奏と、見事に完成されています。
ホレスによって徹底的にアレンジされている「スプリット・キック」でぼくが特に感心するのは、オープニング・テーマ演奏時のブレイキーのドラミングです。ラテン・リズムを使ってある曲なんですけど(ホレスに多し)、まず最初はがが〜っとスネア・ロールで出てホーン二名の合奏に。その後ラテン・ビートを叩きだし、メイン・テーマの演奏に入ります。
そのラテン・ビート・パートに入るときのブレイキーのドラミングのタイミングがまた絶妙だと思うんですね。シンバルを中心とする叩きかた全体もいいです。ホレスがピアノでラテン・リフを奏でているのとピッタリ合致して、フロントの管二名のリフをがっちりバッキングしています。あいまあいまにスネア・ロールを入れて装飾しながら、緩急自在、オープニング・テーマ演奏をブレイキーはこれ以上ない完璧なものに仕立て上げていますよね。
こういった演奏こそグループのリーダーたるドラマーのとるべきまさにお手本というようなドラミングじゃないでしょうか。ソロ・パートに入ってからも要所要所で手綱をとってみんなをしっかり盛り立てたり引っ張っていったりしていますよね。ただたんに4ビートを刻んでいるだけではありません。バンドの心臓部となって、グルーヴを牽引しています。
そうして「スプリット・キック」という曲ができあがっているわけですけど、このバードランド・ライヴは1954年の2月なんですね。というとハード・バップの夜明け直前といった時期じゃないでしょうか。ハード・バップは1955年か、あるいはモダン・ジャズ界全体がしっかりその方向を向いたのは名盤がこぞって録音された56年と見るべきでしょうね。
でもその前の1954年の「スプリット・キック」で、もはやブレイキー(やホレス・シルヴァーたち)は完璧にハード・バップをつくりあげています。実際、二枚の『バードランドの夜』ライヴ盤はハード・バップの夜明けを告げたものと位置付けられることも多いと思うんですけど、今回「スプリット・キック」をじっくり聴きかえし、その完成度の高さにびっくりしちゃいました。
それをもたらしているのは、むろん曲を書きアレンジしたホレス・シルヴァーや立派なソロを吹くクリフォード・ブラウンらの力量もありますが、ぼくの見るところバンド・リーダーのアート・ブレイキーの牽引統率力にほからならないです。この1954年バードランド・ライヴのときのバンドは、実質的にジャズ・メッセンジャーズの前身ですが、このライヴのあとそれを結成したら、ブレイキーはまさにハード・バップの、ブルー・ノートの、ハートビートとなっていくのでした。
(written 2019.10.14)
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