ロックにおけるラテン・シンコペイション(2)〜 ツェッペリン『プレゼンス』篇
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いまごろようやく明文化しているのかとあきれられそうですけど、レッド・ツェッペリンのアルバム『プレゼンス』(1975年録音76年発売)ではかなりはっきりした跳ねるラテン・リズムが聴けますよね。それも、このバンドのこのアルバムのばあい、たぶんアメリカ南部のニュー・オーリンズ経由でということじゃないかと思います。カギは間違いなくミーターズ。ジョン・ボーナムがジガブー・モデリステのファンで、よく研究していたことは知られていますよね。
アルバム・ラストの「ティー・フォー・ワン」はないことにぼくはしている『プレゼンス』だと、1曲目の「アキレス・ラスト・スタンド」はそうでもないと思いますが(どっちかというとフラットにずんずん進むビート)、2曲目以後はどの曲のリズムも強く跳ねていますよね。その跳ねかたはあきらかにラテン系のシンコペイションだと思うんですね。
特にそれを強く感じるのが3曲目「ロイヤル・オーリンズ」、5「キャンディ・ストア・ロック」、6「ホッツ・オン・フォー・ノーウェア」です。「ロイヤル・オーリンズ」だとサビの部分でコンガが多重録音されているのもラテン香を強く漂わせる効果をもたらしていますよね。しかもそのサビ部分でのリズムの跳ねがかなり強いんです。「キャンディ・ストア・ロック」でもサビで、「ホッツ・オン・フォー・ノーウェア」では一曲全体で、リズムに強いシンコペイションがかかっていますよね。
またアルバム2曲目以後はブレイク、ストップ・タイム、空間、スキマが異様に頻用されているのも、このアルバムのとても大きな特色です。ツェッペリンでこんな作品はほかにありませんからね。しかもストップ・タイムを使った部分でビートの跳ねが強調され、大きくジャンプしたり、突っかかってヨレたり跳ねたりしているでしょう。
こんなところはツェッペリンだと『プレゼンス』だけの特異現象なんですが、こんなアイデアがジミー・ペイジ由来だったのかジョン・ボーナムの発案だったのかわかりませんが、興味深いところです。でもできあがりを聴いて判断する限りでは、ミーターズのあのスキマの多いひょこひょことユニークに跳ねるビート感に近づいているように聴こえますから、ボンゾの着案というかリーダーシップでこんなリズムを多用したのだとも考えられますね。
そう、ツェッペリン『プレゼンス』で聴けるラテンなリズム・シンコペイションは、あきらかにニュー・オーリンズのミーターズ由来なんですね。ジミー・ペイジもジョン・ボーナムも、どっちかというとビッチリと空間を音で敷き詰めていくタイプの音楽家であるにもかかわらず、このアルバムでは空間を、スキマを、活用して、タメやハネを強調しているのも、ミーターズ系です。
こういったことは、煎じ詰めればファンク・ビートとはラテン由来ということにたどりつくと思うんですけど、そのテーマは大きいので今日は追いません。ですけれども、ツェッペリンの連中、特にボンゾがアメリカのファンク・ビートを研究した結果、『プレゼンス』で聴けるようなリズムのラテン・シンコペイションを活かすことにつながっているのは、たいへんに興味深いことです。
(written 2019.10.6)
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