仮想コルトレイン・カルテット? 〜『ザ・リアル・マッコイ』
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マッコイ・タイナーのブルー・ノート盤『ザ・リアル・マッコイ』(1967)。マッコイ、ジョー・ヘンダスン、ロン・カーター、エルヴィン・ジョーンズという鉄壁の布陣です。このアルバムでは1曲目の「パッション・ダンス」と3「フォー・バイ・ファイヴ」がなかでも抜きに出てすんばらしいと思うんですね。特にマッコイとエルヴィン。ふたりともすでにジョン・コルトレインのバンドを離れていましたが、ここでは本当に息ピッタリの超絶プレイぶり。
そんな二名にあおられてかテナー・サックスで参加のジョー・ヘンダスンがまるでコルトレインばりの吹きっぷりですから、ワン・ホーン・カルテット編成のこのアルバムは、さながら仮想ジョン・コルトレイン・カルテットとでもいうような内容といえるでしょうね。1967年といえば夏にトレインは亡くなりますが、もしもフリーというかアトーナルな世界に踏み込まずメインストリーマーのままでいたらトレインはこんな感じになった、というようなものとして聴けるのかも。
ともあれ1曲目の「パッション・ダンス」。曲題どおりの激しい演奏で、パッショネイトで、これはなかなかの聴きものです。四人ともすばらしい演奏ぶりですが、特にドラムスのエルヴィンのかっとびぶりが目立ちます。テーマ演奏部でのこの複雑に入り組んだリズム表現など、どうでしょう、すごいじゃないですか。シンバルやリム・ショットの使いかたなど、目を見張るものがありますね。
もうそのエルヴィン爆発のテーマ演奏部を聴いただけでこの「パッション・ダンス」のトリコとなってしまうほどですが、アド・リブ・ソロ部になるとエルヴィンはいったん落ち着いてやや定常表現にいたります。しかしそこからはマッコイとジョーヘンが熱い演奏をくりひろげているので、熱は冷めないですね。マッコイはトレインのバンドでこれくらい演奏していたと思いますが、二番手で出るジョーヘンもかなりのものですよ。
ほぼトレインが(死ぬ前だけど)乗り移ったようなそんなテナーの吹きっぷりをジョーヘンは聴かせてくれているなと思うんですね。ときどきフリーキーに音がかすれたりしている部分など、まるでソックリ。三番手でエルヴィンのドラムス・ソロもありますが、マッコイ、ジョーヘン二名の激アツなソロ内容と、テーマ演奏部でのエルヴィンの複雑な叩きっぷりで、この曲「パッション・ダンス」は決まりです。最終テーマ演奏後のマッコイとジョーヘンの掛け合いも熱いし、いやあ、見事な8分47秒です。
ちょっとひょうきんなテーマを持つ3曲目「フォー・バイ・ファイヴ」でのマッコイとジョーヘンもソロがすばらしく熱いですが、ハービー・ハンコックっぽい新感覚のバラードである4曲目「サーチ・フォー・ピース」も完璧なる新主流派スタイル。また、ちょっぴり古めの題材というふうに聴こえるほかの二曲でも、演奏内容は新世代のものとなっていて、特にラスト5曲目なんかただのブルーズなんですけど、こういう感じにやるのが1967年当時の新世代的ジャズ・ブルーズ表現だったんでしょうね。
(written 2019.12.1)
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