ウィルソン・モレイラの遺作は、みんなで歌うサンバ
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ブラジルのサンバ歌手、ウィルソン・モレイラの『Tá Com Medo Tabaréu』(2018)。遺作だとのことです。ウィルソンはこんな感じで、はっきり言ってヨボヨボで力もなく、声に張りもありません。だから主役のヴォーカルに集中すると、聴けない作品ということになってしまいますが、約35分のこのアルバムを通してあんがい悪くないなと思えるから不思議です。
あんがい悪くないと思える理由ははっきりしているでしょう。それはなるべくウィルソンの歌に耳が行かないようにアレンジされているから。特にヴォーカル面では大編成コーラス隊がかなり活躍していて、ウィルソンがちょっと歌うとコーラス(ぜんぶユニゾンかな、これは)が出るとか、そもそもコーラス・メインでアルバムが進むように工夫されていますよね。
おかげでヨボヨボなウィルソンの声だけ聴いてがっかりするという結果になりにくいと思うんですね。こうした「みんなで歌う」サンバというのは、この音楽ジャンルの伝統のひとつでもあるわけで、特にカーニヴァル・サンバですかね、こうやってほぼ全編が大編成ユニゾン・コーラスで進むという具合なのは。だから、ウィルソンのこの遺作でも、その伝統にのっとっただけという見方もできます。
伴奏のアレンジもいいですよ。弦楽器+パーカッション(&ときおり管楽器)という編成ですが、弦楽器ではカヴァキーニョがサウンド形成の中核を担っていますよね。この小型のウクレレみたいな楽器の奏でるちょっぴり甲高い音色での刻みがなんともいえず心地いいです。打楽器はパンデイロとスルドと、たまにクイーカかな、それもサンバの伝統マナーですね。
どこまでも土くさい伝統サンバなんですが、この遺作は、年老いてもう声に力のなくなったウィルソンを囲むみんなが力を合わせて主役を盛り立てて、パワー不足を補って、みんなで歌いみんなで演奏するコミュニティの芸能を聴かせてくれるところ、この作品にサンバ・コミュニティの真髄を聴くような気がします。
(written 2019.11.18)
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