マイルズ『ザ・ロスト・クインテット』は1969年のライヴ最終日
https://open.spotify.com/album/2IQwM81ZpSyo3Xp32y8VRd?si=i20gMnoUR-a1kg73OjFK1g
今日の文章はこの記事の追補です。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-fe6b42.html
このリンク先で書いたマイルズ・デイヴィスのライヴ盤『ザ・ロスト・クインテット』は、録音日時と場所が不明だったんですけど、最近、1969年11月9日のロッテルダム(オランダ)公演だと判明しました。この11月の文章を書いた時点では、日本で販売しているディスクユニオンのサイトに11月3日のパリ・ライヴじゃないかとの推測が記載されていて、それは違うだろうとぼくは書きましたが、最近はそれも修正されているんですね。
https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008011076
1969年11月9日のロッテルダム公演は、だいぶ前からブートレグ CD-R がでまわっていて、ぼくも以前から持っています(だからディスクユニオンの「初出」音源との記載は誤り)。それは約十数年以上前の mixi 時代におともだちだったマイルズ・ブート・コレクターのかたとのトレードで手に入れたもの。そのかたは青森県在住でしたが、かなりのコレクターだったのでぼくは恩恵にあずかりました。感謝しています。
ディスクユニオンで売っていて Spotify でも聴ける『ザ・ロスト・クインテット』がなぜ11月9日公演だと判明したのかといいますと、たまたまなんの気なしにディスクユニオンのそのページをふたたび見にいったら、そういうふうに修正されていたからなんですね。それで、えっ、その日のライヴだったら前から流通しているやつじゃん、ぼくも持ってるよとなって手持ちのブート CD-R を聴きなおしてみて、同じだと判明したわけです。
でも違いもありますよ。二点。手持ちの CD-R のほうでは演奏前に司会者のメンバー紹介があることと、1曲目「ディレクションズ」が約二分ほど長いです。メンバー紹介はあってもなくてもいいようなものですけど、演奏の長さ二分の違いはめっちゃ大きいですよねえ。どうして二分も違うかと言いますと、『ザ・ロスト・クインテット』のほうの「ディクレションズ」は完奏じゃないでしょう、ウェイン・ショーターのテナー・サックス・ソロの最後のほうでスッとフェイド・アウトしてしまいます。
ところがぼくの持つブート CD-R の1969.11.9公演分の「ディレクションズ」ではウェインが最後まで吹き、その後(チック・コリアじゃなくて)デイヴ・ホランドのベース・ソロがあるんですね。それが二分近いんです。「ディレクションズ」でベース・ソロとは相当めずらしいなと思います。ほかの日のライヴで聴いたような記憶もありませんからねえ。このロッテルダム公演だけじゃないでしょうか。
これ以外の演奏内容は同一だと思います。
さて、マイルズの11月9日ロッテルダム公演というと、実は1969年のロスト・クインテットのラスト・ライヴになるんですね。すくなくとも現在記録に残っているかぎりではこれが1969年のライヴ最終日です。その日までマイルズ・バンドはヨーロッパを数ヶ月間ツアーしてまわっていました。
ロスト・クインテットのライヴは、その日によって演奏曲目が違ったり演奏の出来も差がありますけれど、基本的には同じことをくりかえしていたとしていいんじゃないでしょうか。1960年代的フリー・ジャズ総決算とでもいうような内容で、69年だとすでに『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチズ・ブルー』でふみこんでいたロック/ファンクへのアプローチはスタジオだけでのもの。ライヴではまだまだ完全にジャズでした。
これが翌1970年のライヴになりますと、メンバーもほぼ変わらないのにどうしてだかリズムがタイトでシャープになって斬れ味を増し、バンド全体もファンキーな演奏をくりひろげるようになります。スタジオ録音でも70年には『ジャック・ジョンスン』がありますね。ライヴでもそんな内容に近づいているかなと思わないでもない展開を聴かせるようになるんです。
最終的にはそれが1974/75年のああいった一連のライヴ傑作群(『ダーク・メイガス』『アガルタ』『パンゲア』、その他ブートなら無数)に結実することになるわけですが、1969年だと11月9日のラスト・ライヴでもまだピュアなジャズ・ミュージックの枠内にとどまっているのが興味深いところですね。かつて油井正一さんがマイルズはスタジオでは先鋭的、ライヴでは保守的と書いたことがありましたが、69年の音楽についてもこれが言えるのでしょう。
(written 2019.12.12)
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