即興の激情 〜 ウェイン『フットプリンツ・ライヴ!』
https://open.spotify.com/album/77hBFKuRXGV6kgHsG2c034?si=u0wlF24BSVOwyBYvF7lUqg
ウェイン・ショーター2001年夏の欧州ライヴ・ツアーから収録されたアルバム『フットプリンツ・ライヴ!』(2002)は、過去の有名レパートリーばかりやっているというのがひとつの売りでしょうね。マイルズ・デイヴィスとやった「サンクチュアリ」「マスクァレロ」「フットプリンツ」をはじめ、「アトランティス」や「ジュジュ」といった有名曲も、それから「アウンサンスーチー」「ゴー」もあります。ジャン・シベリウスの「ヴァルス・トリステ」だけが他作で、そしてこれらすべてマイルズやウェインの過去の作品で聴けるもの(「悲しきワルツも」)。だからこのアルバム題なんでしょうか。
しかしそのむかし2002年にこのライヴ・アルバムを買って聴いたときはずいぶんむずかしく感じて、ちょっと気を抜くとなにをやっているのかわからなくなってしまい、だからうっかり聴けないなと思うとだんだんいやになって、次第に CD もラックのなかに入りっぱなしになって年月が過ぎていました。今回いろんな「フットプリンツ」を聴きかえそうと思って気を取りなおしてアルバムを聴いたら感動しちゃったので、ぼくの耳もちょっとだけなら進歩しているのかも。
いちばん感動したのはウェインの聴かせるパッションですね。そういった部分がこのライヴ・アルバム最大の特色なんじゃないかと思うんです。オープニングの「サンクチュアリ」ではまだ様子をさぐっているような演奏ですが、2曲目の「マスクァレロ」ではやくも激情爆発。四人とも、特に演奏後半で、まるでなにかを思い切りぶつけるような激しい演奏を聴かせていますよね。マイルズ・ヴァージョンで聴けたようなラテンなリズム展開はないんですけれど、ウェインと三人(特にピアノのダニーロ・ペレスとドラムスのブライアン・ブレイド)がここまでアツイ演奏をしていれば大満足です。
激情がほとばしっているというのは『フットプリンツ・ライヴ!』全体をとおして言えることで、しかもそれは全面的な即興によって成り立っていますよね。過去の有名曲をたくさんやっていますが、このアルバムではよく知られたそんなメロディは断片的にしか出てきません。演奏の際の短いモチーフみたいな、あるいはフックとして、使われているだけで、「曲」によりかかった演奏になっておらず、アルバムの最初から最後までカルテットによる全面即興がくりひろげられているというのが真実です。
それでここまでのものができあがるわけですから、四人の実力のほどがわかろうというもの。ジャズにおける即興の素晴らしさを実感する一枚ですね。2曲目「マスクァレロ」に次いでアツイ演奏を展開しているのが、5「アウンサンスーチー」(これも後半がものすごい)、6「フットプリンツ」、7「アトランティス」あたりでしょうか。激しいパッションをぶつけもりあがる場面で思わず叫び声をあげているのはブライアン・ブレイドですかね。さもありなんと思えるだけのウェインの熱をぼくら聴き手だって感じます。
ラスト8曲目の「ジュジュ」では、最初ベーラ・バルトークの室内楽を聴いているようなそんな演奏にはじまって、ドラムスが入ってからはやはりジャジーに熱く燃えあがり、バルトーク成分を担っていたアルコ弾きのジョン・パティトゥッチがピチカート弾きにチェンジ、ウェインがまずテナー・サックスで出ると、青白い炎のように揺れる音色で魅了します。ピアノのダニーロも特筆すべきできばえですね。
(written 2020.1.12)
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