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2020/01/30

極上の心地よさ 〜 森保まどかのヒップホップ・クラシック『私の中の私』

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https://open.spotify.com/album/4Mb3jzZvDu2wsVtwL6RCd3?si=tfvmdDMaQU-ZTVBkNNKc_A

 

発売日前日の2020年1月28日に届いた森保まどか(HKT48)のソロ・ピアノ・アルバム『私の中の私』(2020)。六歳から弾いている森保のピアノのうまさはみなさんご存知のとおり。元 AKB48の松井咲子と並び、このアイドル・グループ系の在籍・元メンバーのなかでは断然トップの演奏力を誇っていて、その姿はフジテレビの番組『TEPPEN』でのピアノ対決でお茶の間をうならせてきていますからね。

 

そんな森保がソロ・ピアノ・デビュー・アルバムを録音しリリースするというのを知ったのは昨年初冬ごろのことでしたか。まどかファンとしては心待ちにしていたものなので、早速予約したってわけですよ。これをしかし素人の発表会的な腕前見せ、アイドル・タレントの余興、といったレベルのものだろうと想像なさっていたら大間違いですよ。本格クラブ・ミュージック仕立てのクラシック・アルバム、いわばヒップホップ・クラシックの傑作ですから。

 

以下、まずアルバム収録曲の一覧と、その右にそれぞれの作曲者名とサウンド・プロデューサー名を記しておきます。

 

1 Introduction - 森保まどか
2 ジムノペディ (D&B Version) - エリック・サティ / 鳥山雄司
3 TEMPEST (Latin Club Mix) - ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン / 伊藤修平
4 幻想即興曲 - フレデリク・フランソワ・ショパン / 武部聡志
5 トロイメライ (Dub Mix Version) - ロベルト・アレクサンドル・シューマン / 本間昭光
6 悲愴 (Album Mix) - ベートーヴェン / 松任谷正隆
7 No Diggity!! - 伊藤修平 / 同
8 Lotus - 武部聡志 / 同
9 Beyond The Line - 鳥山雄司 / 同
10 17END - 本間昭光 / 同
11 即興曲#727 - 松任谷正隆 / 同

 

森保みずからのピアノ&ナレイションによる49秒の「イントロダクション」に続き、アルバムは大きくいって2パートに分かれていると言えるでしょう。前半のスタンダード・クラシック曲セクション、後半のジャジーな書き下ろしオリジナル曲セクションです。でも聴けば全体的に違和感はないですね。2パートに分かれているということすらわからないかも。それくらい自然です。

 

さてこのアルバム、「イントロダクション」に続き、2曲目の「ジムノペディ」でびっくりしますよね。森保が弾いているのはたしかにエリック・サティの書いたクラシカルなラインですが、それにエレクトロニックなビートが付与されているんです。D&B っていうのはドラムンベースということでしょう。クラブ・ミュージックっぽいビート感で、ちょっぴりヒップ・ホップふうにも聴こえますね。ブックレットには一曲づつプログラマー名も明記されています。

 

いやあ、こんなクラシック・ピアノ作品は聴いたことがないですよねえ。ミックスされているエレクトロニックなビートのおかげで、クラシックなのにダンサブルに感じますからね。すごいすごい。アルバム・プロデューサー松任谷正隆のアイデアだったのでしょうか。しかしそんなビート感にちっとも負けないピアノを弾いている森保はもっとすごいです。録音はピアノとビートとどっちが先だったんでしょう。森保はあきらかにビートに乗せるように弾いていますけどね。サウンド・メイクも抜群です。

 

感心するのは、こういった強いデジタル・ビートを付与したクラブ・ミュージック仕立てにするならば、肝心のピアニストの音の粒立ちがしっかりしていないと聴きものにならないんじゃないかと思うのに、森保のピアノ演奏は音が太くて立って生きているということです。丁寧でよく考え抜かれているし、先鋭的なビート感とぴったり合致し、それでいてしかもクラシカルな典雅さを存分に表現できています。松任谷や一曲ごとのサウンド・プロデューサーの仕事も見事ですが、森保まどかというピアニストの存在感がきわだっていますよね。

 

そんなことがアルバム全体について一貫して言えることなんです。ベートーヴェンやショパンなどにコンピューター・ビートをまぜるなんて、いままでだれも考えつかなかったことでしょう。森保の一流のピアノ演奏力とあいまって、聴き慣れたクラシック・ナンバーが斬新な容貌と化し新たに出現します。シューマンがダブふうに仕上がっているし、ダブのトラック・メイク・マナーはヒップ・ホップのルーツでもあるのでした。ぼくなんか感性もオジサンだから、もうこのアルバム『私の中の私』を聴きながら驚いちゃって興奮しきり。もう今日はこの一枚ばかりなんどもリピートしています。「テンペスト」なんかサルサっぽく仕上がっていますしねえ。

 

そのままスムースにアルバム後半のオリジナル・ナンバー・セクションへと流れていきますが、その後半はジャズ演奏っぽいフィーリングですね。だからヒップ・ホップふうなデジタル・ビートとの融和はいっそう進んでいます。なめらかに弾く森保と快活で陽気なエレクトロニック・ビートの合体で、聴いているぼくの気分も極上のリラクシング。本当に快感なんです。ちょっぴりチルホップ(ローファイ・ヒップ・ホップ)っぽいですね、この後半部は。幕開けとなる7曲目「No Diggity!!」の出だしでアナログ・レコードに針をおろすサウンドが入っていますから、いっそう。

かなりおもしろいのが、大城美佐子の「片想い」をサンプリングしてある10曲目「17END」。沖縄の島唄(サンプリング部以外は三線だけ)と森保のジャジーなピアノとエレクトロニック・ビートと、これら三者合体で、ちょっと体験したことのないサウンドスケープを見せてくれています。レゲエっぽいリズムのノリがあるし、この曲のプロデューサーは本間昭光ですが、楽しいアイデアで降参しました。

 

全体的に生演奏のピアノとプログラミングによる現代的デジタル・ビートが5対5で向き合い有機的に溶け合っているなと思う森保まどかの『私の中の私』ですが、アルバム・ラストの松任谷作「即興曲#727」だけはクラシカルなピアノ独奏で、ビートの付与はなし。ここでは森保のピアノ・ヴァーチュオーゾぶりがよくわかる壮絶な演奏で、ときおりデューク・エリントンふうの豊穣で不協和なブロック・コード叩きもみせながら、聴き手を魅了します。これ、松任谷が倍速にして渡したデモを森保はその速さのまま弾いちゃったんだそうですよ。

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(written 2020.1.28)

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