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2020/01/24

岩佐美咲『美咲めぐり〜第2章〜』のライヴ・テイクがすばらしすぎる

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昨2019年11月に発売された岩佐美咲のニュー・アルバム『美咲めぐり〜第2章〜』。通常盤と初回特別盤の二種類ありますが、どう考えても初回特別盤を買う以外の選択肢はありません。そっちにだけライヴ収録の三曲が収録されていて、それらがあまりにもすばらしすぎるからなんです。ぼくはもう発売以来毎日聴いているんですね。初回などと銘打っていますが、たぶんずっと買えます。

 

ライヴ収録の三曲「ごめんね東京」「初酒」「もしも私が空に住んでいたら」のうち、「ごめんね東京」は標準的な出来じゃないかなと思います。美咲についてぼくが「標準的」と言うときは、それはなかなかいいぞという意味なんですけどね。抜群なとき(がいつ来るか分からないからライヴ通いがやめられない)があまりにもずば抜けてすばらしすぎるから、なかなかいいよ程度だと標準的という形容になるんですね。それくらい現在の美咲はふだんからレベルが高いです。

 

がしかし『美咲めぐり〜第2章〜』に収録のライヴ・ヴァージョンの「初酒」「もしも私が空に住んでいたら」はとんでもない出来ですよ。こんなにも絶品な美咲をいままで CD ではほとんど聴いたことがないかも。二曲とも美咲初期のシングル・ナンバーで、スタジオ録音はそれなりに練り込まれて完成されていますが、それでもこれらライヴ・ヴァージョンを聴いたら、もうまったく比較になりませんね。だんぜんライヴのほうがいいです。

 

「初酒」は2017年、「もし空」は2018年のソロ・コンサートでの収録ですが、たとえば「初酒」でも声の色艶がグンと増していて、しかもこの人生の応援歌みたいな歌を、いっそう前向きに肯定的に歌い込むことに成功しているんです。美咲の声に、なんというか丸みや成熟が聴けますよね。そう思うと、カラオケだから変わりはない伴奏まで違って聴こえる気がするから歌の力とはおそろしいものです。

 

近年のライヴでの「初酒」では、特に緩急が自在なのも特徴です。なかでもぼくがいつも感心しているのは、ファースト・コーラスの「我慢しなくていいんだよ」部とツー・コーラス目の「カッコ悪くていいんだよ」部なんです。いずれも声を強く張って出し、強く説得するようにグイッと発声しているんですが、最後の「よ」の部分に来たらスッと軽く声を抜いてふわっとやさしくやわらかく声を置いているでしょう、そこでぼくなんかはほだされてしまうんです。なんという説得力のある大人な歌いかたでしょうか。

 

ライヴ収録の「初酒」全体にエネルギーがみなぎっているし、余裕を感じるし、しかもミキシングだって効果的に考えられています。この曲(と「鯖街道」)では観客がリズムに合わせて手拍子をするんですけど、CD を聴きますとファースト・コーラスから小さくその音が入っています。でもツー・コーラス目になってはじめて大きめに手拍子の音が入るようにミックスされているんですね。それでこの曲、この歌のもりあがり感、臨場感、ライヴなんだという空気感がいっそう効果的に高まっているんですね。ミキシング・エンジニアは二名が CD ブックレットにクレジットされていますが、どなたのアイデアだったんでしょう、見事な仕事です。

 

もっとすごいのがアルバム・ラストのライヴ「もしも私が空に住んでいたら」です。もはや壮絶とまで言いたいほどの迫力に満ち満ちているじゃありませんか。ここの美咲はいったいどうしちゃったんでしょうか、声の伸び、張りも最上級。このときのライヴ・コンサートはぼくも現場で聴いたんですが、CD でなんども聴くとビックリしちゃいますね。なんなんですか、この美咲の声の美しさは。ベスト of ベストですよ。

 

このライヴの「もし空」を聴くと、美咲がいまの日本の歌謡界最高の歌手のひとりであることは間違いないと思えます。たとえば声の色艶。ファースト・コーラスの出だしからふだんとはちょっと違うぞ、この「もし空」は尋常じゃない、どうしたんだ?と思わせる緊迫感、迫力、説得力がありますが、「そっと見送る」の「る〜〜」部。ここの声の美しい伸びは、いままでの美咲のなかでも聴いたことのない最上の絶品じゃないでしょうか。

 

ツー・コーラス目でも「ため息になる」の「る〜〜」部が同様です。それらでは声に、それとはわからない程度の軽いほんのりヴィブラートがかかり、そのおかげで声に独特の伸びやかさとまろやかさが出ているんですね。しかもその声じたいが丸くて太くて、しかも隠で暗いんです。「もし空」というこのしっとり系の曲の曲想にこれ以上なくピッタリする声の色と質なんですね。

 

ツー・コーラス目の「偽名と孤独」部、サビでの「出逢ったこと、愛したこと」の「こと」部での、そっと隠に声をポンポンと置くタイミングの絶妙さ、軽いヴィブラートで強く声を張る部分とのコントラストのすばらしさ、「愛し合ってはいけないあなたと」「月に一度の合瀬を重ねて」部での歌詞に説得力を持たせる繊細なフレイジングと声そのものにこもる迫真の見事さなど、もう言うことない完璧な完成度じゃないでしょうか。

 

「頬の涙は触れられないけど、自分のその指で拭う日が来る」「ひとはだれでもすぶ濡れになって、いつかの青空を思い出すでしょう」なんていう歌詞を、ここまで迫力と説得力を持って歌い込むことのできる歌手が、いまの日本にはたして何人いるのでしょうか。すくなくともこの2018年ライヴ・ヴァージョンでの美咲以上に美しく歌える歌手はまずいないのではないでしょうか。

 

「もし空」は、「初酒」もそうですけど、長く歌い続けることのできる普遍的な内容を持った歌です。今後も何十年とどんどん歌い込んでいくことで、また美咲の人間的な、あるいは歌手としての、成長にともなって、どこまでものすごい歌唱に化けていくか、出かかり(by 山本譲二)の色艶がどこまで成熟するのか、考えただけでおそろしい気分です。20代前半は歌手として音楽家としてじゅうぶん成熟できる年齢で、それでここまで壮絶な、特に「もし空」が、そうなっているわけですけど、美咲はいったいどこまでの深みをこの名曲に込めることができるようになるのか、想像することすら今はできないですね。

 

(written 2020.1.14)

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