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2020/01/10

ボサ・ノーヴァのせいよ 〜 イーディー・ゴーメ

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https://open.spotify.com/album/2ZEGjN8ahDXR1mrFvwJaOh?si=62lD-UG3Rjaj2WU8JkSi5w

 

昨日ハンク・モブリーのアルバム『ディッピン』にある「リカード・ボサ・ノーヴァ」(「ザ・ギフト」)のことを書いて、イーディー・ゴーメ・ヴァージョンに言及したでしょ。そうしたらやっぱり聴きなおしたくなって、Spotify でさがしたらあったので聴いたんですよ、「ザ・ギフト」が収録されているイーディーのアルバム『ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノーヴァ』(1963)を。なかなか悪くない作品じゃないですか。

 

昨日書いたような思い出のある曲、アルバム、歌手ではあるんですが、実はいままで歯牙にもかけていなかったんですよね。ところが長いときを経て、特にごく最近かな、ぼくの趣味も変わってきているんでしょう、イーディー・ゴーメの『ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノーヴァ』みたいな軽いジャズ・ボッサ・ヴォーカル作品が心地いいと感じるように心境がというか好みが変化しています。むかし大学生〜大学院生のころはケッ!とか思っていたのになあ。

 

その背景として、ひとつには最近ブラジルの会社ジスコベルタスがどんどんリイシューしている過去のブラジル音楽アルバムのシリーズがあります。あのシリーズのなかにはサンバ・カンソーンや軽めのボサ・ノーヴァ、ジャズ・ボッサみたいなものがありますよね。そういうのを次々と耳にしているうちに、そういう音楽の楽しみかたが自分なりに身についてきたのかもしれません。

 

それに今回イーディー・ゴーメの『ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノーヴァ』を耳にしてみたら、なかなかよくできた秀作じゃないかなとも感じたんですね。最大の理由は、イーディーのなめらかなヴォーカルの味もさることながら、なにより伴奏のアレンジと演奏です。アレンジャーは曲によってニック・ペリート、メアリオン・エヴァンズ、ビリー・メイの三名がそれぞれ分担。このアルバムでこの三名のアレンジを聴き分けることは(判明していますが)むずかしいと思います。

 

それくらいアルバム全体が軽快なアメリカン・ジャズ・ボサ・ノーヴァで統一されていますよね。コロンビアのプロデューサーだったアル・ケイシャの仕事が徹底していたということでしょう。選曲もいいですよ、「ワン・ノート・サンバ」「ザ・ギフト」「ディザフィナード」などは当然のできあがりでしょうけど、「オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ」「ムーン・リヴァー」といったボサ・ノーヴァとは縁もゆかりもない曲だってとりあげて、それを100%完璧なジャズ・ボッサに仕立て上げているんですから。

 

プレイヤーの具体的なパーソネルは一部しかわかりませんが(マンデル・ロウやクラーク・テリーがいます)、それも手練れの演奏ぶりで感心します。かなりの部分が譜面になっていたんだなと聴けばわかりますが、練習とリハーサルをくりかえしたということもあるでしょうし、そもそもこれくらいこなれた演奏のできるメンツをそろえていたんでしょうね。

 

1963年にこれだけこなれたスムースなジャズ・ボッサをすいすいと難なく(と聴こえる)演奏し、主役のイーディー・ゴーメの歌を寸分も邪魔せずもりたてて、アルバム全体を軽いポップな、つまりヒットするようなできあがり感満載にしあげる、当時のコロンビア製作陣と演奏者たちの仕事ぶりに、いまさらながらあらためて感心しちゃいました。

 

これだけお膳立てがちゃんとしていればどんな歌手だってそこそこの作品ができると思うほどですが、それにくわえてイーディー・ゴーメのようなチャーミングなポップ/ジャズ歌手がノリよくボサ・ノーヴァ・スタイルをものにしたヴォーカリングで歌いこなしているんですから、そりゃあ結果アルバム『ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノーヴァ』が好作になるわけです。ヒットしたのも当然ですよね。

 

1963年というと同じジャズ・フィールドにはエリック・ドルフィーやオーネット・コールマンやジョン・コルトレインやアルバート・アイラーなどがいましたが、比較するのは無意味です。イーディー・ゴーメのアルバムのほうもこれはこれで立派な作品なんです。硬派なリスナーのみなさんはいまだに相手にしていらっしゃらないかもですけど、これだけのこなれた伴奏と、イーディーのような、重さのないポップでソフトな歌い口があわされば、いまのぼくなんかはもう文句なしに楽しいんです。

 

(written 2019.12.29)

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