ウェインの『アダムズ・アップル』は聴きやすい
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ずっと苦手にしてきた1960年代ウェイン・ショーターのブルー・ノートへのリーダー諸作。でも最近ちょっと気を取りなおして聴きかえしているんですね。最近自分でも音楽に対する嗜好がやや変化しているかもと自覚していますから、いま聴けばそれらのウェインだっていい感じに聴こえるかもしれません。実際、『アダムズ・アップル』(1966年録音67年発売)なんかは聴きやすくて、いまはかなり好きになってきています。
1966年というとウェインはマイルズ・デイヴィス・バンドで活動しているさなかで、同年には『マイルズ・スマイルズ』をいっしょに録音していますね。でも『アダムズ・アップル』だとそんなに新主流派的な音楽になりきっていない感じもします。従来からのハード・バップ路線上にある一枚かもしれませんね。もっと前の作品、たとえば『ジュジュ』『スピーク・ノー・イーヴル』なんかでは完璧に新世代ジャズ、つまりポスト・バップを表現していたのに、ちょっと意外な気もします。
サイド・メンはピアノがやっぱりハービー・ハンコックなんですけど、ベースとドラムスがレジー・ワークマンとジョー・チェインバーズで、アルバム『アダムズ・アップル』がやや保守的に聴こえるのは彼らのおかげでもあるんでしょうか。でもぼくがウェインを苦手としてきたのはそんな部分じゃなくて、たぶんひとえにあのもっさりしたテナー・サックスの音色ゆえだと思うんですけどね。作品によっては聴きやすく思うこともあります。
1曲目のブルーズ「アダムズ・アップル」はちょっとファンキー・ジャズというか、いわゆる #BlueNoteBoogaloo 的なフィーリングもあるので、実はかなり好きです。そうなっている原因は曲そのものというよりピアノのハービー・ハンコックのブロック・コードの弾きかたにあると思うんですね。テーマ演奏〜ウェインのソロのパートと続けてずっと一定のファンキー・リフを叩いているでしょう、それがちょうど「ウォーターメロン・マン」にやや似て聴こえないでもないんですよね。好きなんです、こういったハービー。クラシカルな資質も色濃く持つピアニストですけど、同時にファンキーですよね。
ウェインのソロ部でずっとハービーは同じブーガルー・リフを叩いていますが、ウェインが吹き終えたらそのままのブロック・コード弾きで自身のピアノ・ソロに入ります。もうひとえにこのハービーのファンキーなブロック・コード・リフのおかげですね、この曲「アダムズ・アップル」が好きなのは。ジョー・チェインバーズもブルー・ノート・ブーガルー的なドラミングで快感です。
こういった感じで幕開けするのでアルバム『アダムズ・アップル』は印象がよくなるんですね。でも2曲目以後にこんなファンキー・ジャズ(つまりハード・バップっぽいんだけど)はないんじゃないですか。3曲目「エル・ガウチョ」はこんな曲題にもかかわらずボサ・ノーヴァ・テイストです。いわゆる(スペイン語圏の)ラテンなフィーリングとはちょっと違います。これもいいですね。
ラテン・テイストといえば、アルバム6曲目の「チーフ・クレイジー・ホース」にちょっぴりそれを感じます。特にジョー・チェインバーズのやや複雑なリズム表現にそれが聴けるんじゃないでしょうか。あ、この曲はちょっとポリリズミックですかね、何拍子なのか数えてみようと思ったらちょっとむずかしそう。この曲はだからかなりおもしろいです。いわゆるふつうのハード・バップじゃないし、これには新世代のポスト・バップ的な感覚があるように思います。
さて、4曲目の「フットプリンツ」。当時のボスだったマイルズが『マイルズ・スマイルズ』でとりあげ、その後のライヴでもしばしば演奏されたので有名化しましたが、初演はここで聴けるウェイン自身のヴァージョンなんですね。マイルズがやったようなリズム面での斬新な展開はなく、ごくあたりまえな3/4拍子の定型ブルーズでやっています。だからマイルズ・ヴァージョンを先に知っている(というひとが多いはず)と、イマイチに感じないでもないですね。
アルバム『アダムズ・アップル』では、そんな感じで全体的に先立つウェインのポスト・バップ的諸作よりも、なぜかやや後退したような保守的路線、ごくふつうのハード・バップに接近しているのがかえって聴きやすさに転じていて、ブルー・ノート・ブーガルーな感じもあり、そのせいか関係ないのかぼくの苦手なウェインのテナーのもっさりした音色感もやや薄まっているように聴こえるので(あの感じはウェイン独自の新感覚曲でフル発揮されるものかも)、個人的には愛聴盤になりうる一枚ですね。
(written 2020.1.10)
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