グナーワを借りてきたミスティックなモロッコ人歌手、オウム
https://open.spotify.com/album/0sC0RjNpcsUjzI9le1yyh0?si=SQ84VuP6TSKCEEhtzApPFA
オウムという読みでいいんでしょうか、Oum。モロッコ出身の歌手です。いまはたぶんフランスで活動しているんですかね、わかりませんけど、このアルバム『Daba』はフランスでリリースされた2019年作です。モロッコ出身ということで、実際聴いてみてもその地の音楽ルーツに根ざした一作じゃないかと思えます。
特にグナーワでしょうか、このアルバムで顕著なモロッコ音楽要素は。しかしグナーワと言ってもあの音楽のあんな神秘性、呪術性は引き継いでおらず、たんに音楽形式、音の重ねかただけ拝借して(ゲンブリやカルカベではない)別の楽器で表現しているといったやりかたです。プラス、ジャジーな要素もかなり聴きとれますね。
楽器で特徴的なのは(ゲンブリではなく)ウードで、アルバムで全面的に聴こえるし、グナーワにおけるゲンブリ的な使われかたをしているみたいですね。リズムは手拍子も多用され、そのへんはグナーワっぽいですが、そのほかはダルブッカなど北アフリカ系のパーカッションと、それからドラム・セットも使われています。ウード+ダルブッカとなると、モロッコというよりアルジェリアを連想しますよね。でもこのアルバムにアルジェリア音楽要素はありません。
それから管楽器が多用されているのが目立ちます。全曲でなんらかの管楽器、特にトランペットですね、ばあいによっては複数本使われていて(多重録音?)、それがグナーワ的な反復形式にのっとって、たとえばミュートをつけて吹いたりしますので、それがオウムのこのミスティックなヴォーカルと重なって、なかなかほかでは聴けない特異なムードをかもしだしています。
オウムのヴォーカル・スタイルはちょっとつかみどころのないもので、フワ〜っとヴェールのように漂う感じ。個人的にはもっとこう、ガツンとくる濃ゆい発声のほうが好みなんですけど、これはこれでこの音楽に似合っていて雰囲気があります。不思議とクセになる味を持った歌手ですね。気づいたらなんども聴いちゃっていますから、ぼく自身なにか魅力を感じているんでしょう。
ジャズの手法も取り入れつつ、自身のルーツであろうモロッコ音楽の手法を土台において、その反復形式で音を重ねつつ、その上でフワッとヴェールのようにヴォーカルと管楽器を載せるという、そんな音楽だといえるでしょうかね、オウムの『Daba』。なかには個人的にかなり気に入っている曲もあります。たとえばダルブッカが中盤で活発する9曲目とか。
もりあがる曲でのそのもりあがりかたは、あきらかにグナーワのマナーですし、グナーワに聴こえませんけど、サウンド構築の手法、リズムの反復形式は共通しているんですよね。オウムのヴォーカルも音楽全体も、もっとクールですけどね。
(written 2019.12.27)
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