多すぎるアフロビート・ジャズだけど 〜 ダニエル・ジゾヌ
https://open.spotify.com/album/63IOjGDbHot5fIIzjh5ZIf?si=btWI8YY7Q7Ohw5NSsYtRwA
ところでいまアフロビートは大流行しているんですよねえ。そう思います。特にジャズ界隈でかなりもてはやされているのは間違いありません。ここ数年もう次々とそんな作品に出会いますから。今日話題にしたいアルバムもそんな一枚。調べてみても西アフリカのトランペット奏者ということしかわからないダニエル・ジゾヌ(Daniel Dzidzonu)の『Walls of Wonder』(2019)です。
同じアフリカのトランペッターということで、ダニエルはヒュー・マセケラの流れを汲む音楽家なのかもしれません、このアルバムには「リメンバー・マセケラ」という曲もあるくらいなんで。ダニエルがやっているのもアフロ・ジャズで、しかもそのアフロ要素は完全にフェラ・クティのアフロビートを持ってきているという、そんな音楽でしょうね。アフロビート・ジャズ、多いですね最近、多すぎるくらい多いです。
ダニエルの『ウォールズ・オヴ・ワンダー』だと、最後の三曲だけちょっと編成と様子が異なっていますが(そのうち二つは前作にあった曲のリミックスだし)、それらの前まではたぶんパーカッション+ドラムス+ベース+エレキ・ギターがリズムで、鍵盤楽器は控えめ。その上に管楽器群とヴォーカルが乗るというやりかたですが、管楽器はサックスなしのブラスだけかもしれません。曲によってはストリングスも入ります。
このアルバムでぼくがいちばん感心したのはダニエル自身のトランペットやヴォーカルではなくて、エレキ・ギターリストなんですね。いやあ、カァ〜ッコイイです。もちろんホーン・アンサンブルもカッコイイんですけど、こんなエレキ・ギターの弾きかたができるのはすばらしいと思うんですね。曲によってはひょっとしてギターリストが二名同時演奏しているのかと思わないでもないですが、いずれも見事なサウンドです。
だいたいこんなジャケットだし主役がばりばりとファンク・トランペットを吹きまくっている音楽なのかと思いきや、そうでもないんですね。トランペット・ソロが聴こえる時間はそんなに長くありません。そしてトランペットが鳴っているあいだもそうでない時間も、このエレキ・ギターのコード・カッティングが創り出す空間があまりにも心地いいんで、それにばかり耳が行ってしまいます。
たとえばアルバムで唯一これだけなぜかライヴ収録の5曲目「E.I.A. (Emergency In Africa)」。ここでは鮮明に二本のエレキ・ギターが聴こえますね。一人がコード・ワーク、もう一人がシングル・ノート・リフ反復で、まるで1960年代後半のジェイムズ・ブラウン・バンドみたいです。そしてダニエルのこの二名のギターリストがからんで生み出しているサウンドが極上のグルーヴなんですよねえ。
そのツイン・ギター・サウンドの心地よさに比べたら、やはり見事だと思うホーン・アンサンブルやヴォーカル・パフォーマンスはどうってことないように思えてしまうんですね。とにかくほかの曲もぜんぶふくめて、ダニエルのこのアフロビート・ジャズではエレキ・ギターが主役のようで、ぼくは Spotify で聴いているだけだからだれが弾いているのかわかりませんが、名前をチェックして憶えておきたいです。
5曲目と並ぶ、このアルバムでの個人的ベスト・トラックは、続く6曲目「アフロ・ドリーム」。この曲ではエレキ・ギターのコード・ワークもいいんですけど、それよりもいきなり出だしから鳴るホーン・アンサンブルが超カッコイイですね。続くダニエルのトランペット・ソロもかなりの聴きもの。と思っていると、やはりエレキ・ギターが目立つようになり、そうしたらいきなりカルロス・サンタナみたいな濃厚ソロが出ます。いやあ、こりゃいいなあ。コードを弾いているひとの多重録音か別人か、ホントだれが弾いているんです?
(written 2020.1.8)
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