アンナ・ナリック、 100年間のアメリカを歌う
https://open.spotify.com/album/4Y1pJXJlrvNxSdk0vaLmNp?si=DCuglSzuQdSC7B6R4bZtMQ
萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2019/12/09/the-blackest-crow-anna-nalick/
アンナ・ナリックっていう歌手、ぼくはいままで知らなかったんですが、ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライターで、15年ほど前にプチ大ヒットを飛ばしたことがあるそうです。「ブリーズ」という曲なんですって。ちっとも気づきませんでした。その後やや不活発になっていたんでしょうか、いままで名前を聞くこともなかったんですけれど、健太さんの紹介でアルバム『ザ・ブラッケスト・クロウ』(2019)を聴いてみたら、とってもいいじゃないですか。びっくりしちゃいました。
このアンナ・ナリックの『ザ・ブラッケスト・クロウ』は、しかし全曲カヴァー・ソングなんです。かなりの有名曲もあるし、なんたって新旧とりまぜジャンルも横断して、幅広い楽曲の数々をとりあげているのが目を引きます。伴奏はアクースティック・ギター、コントラバス、パーカッションの三人だけ。曲によってはこれにチェロ奏者がくわわりますし、またギターだけの伴奏とかベースだけといったものだってあるんですね。要はアンプラグドというか全編アクースティック・サウンドで貫かれています。
というわけでスタンダード集みたいな側面もありますから、下にこのアルバム収録曲の作者と初リリース年を一覧にしておきます。この作品を理解するには重要なことだと思うからです。一瞥してなんらかの傾向を嗅ぎとることができるでしょうか。
1「アズ・タイム・ドロウズ・ニア(ザ・ブラッケスト・クロウ)」(トラディショナル、南北戦争ごろにはあったらしい)
2「マイ・ラフ・アンド・ラウディ・ウェイズ」(ジミー・ロジャーズ、1929)
3「サム・オヴ・ジーズ・デイズ」(シェルトン・ブルックス、1910)
4「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイモア」(デューク・エリントン、1940)
5「ウォータールー・サンセット」(キンクス、1967)
6「ヘルプレスリー・ホーピング」(CSN、1969)
7「アイル・ビー・シーイング・ユー」(サミー・フェイン、1938)
8「トゥルー・ラヴ・ウェイズ」(バディ・ホリー、1960)
9「マイ・バック・ペイジズ」(ボブ・ディラン、1964)
10「ザッツ・オール」(ボブ・ヘイムズ、1952)
11「ライト・ヒア、ライト・ナウ」(ジーザス・ジョーンズ、1990)
12「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」(ハーマン・ハップフェルド、1931)
かなり古い曲から1990年のものまで約100年間近くのアメリカン・ソングを(英国のものも一曲だけあり)ジャンルを問わずチョイスしていますよね。1990年のジーザス・ジョーンズの曲はでも例外で、基本的にアンナ・ナリックを形成したやや古めの曲の数々、また本人と直接の縁はなさそうな第二次大戦前のものが中心になっています。
カントリーのジミー・ロジャーズの曲もあるし(アンナもブルー・ヨーデルを披露する)、ジャズのデューク・エリントンとか、やはりジャズ歌手がやることの多いスタンダードである「サム・オヴ・ジーズ・デイズ」「アイル・ビー・シーイング・ユー」「ザッツ・オール」「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」があります。かと思うとロック寄りの CSN やボブ・ディランの歌だってありますよね。
それらがシンプルなトリオ編成(+1)の伴奏でいい感じに仕上がっているなと思うんですよ。特にぼくの耳を惹いたのはジャズ系の曲。たとえばデュークの「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイモア」。間奏のギター・ソロがジャジーじゃないのがかえっていい感じに聴こえるし、なんだかヴァースがついているし(そんなのあったっけ、この曲)、アンナもうまく歌っていますよね。
ビリー・ホリデイがコモドア盤で歌った二曲「アイル・ビー・シーイング・ユー」「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」なんかもステキです。前者では間奏でチェロ・ソロが入るのがなんともすばらしく、曲の持つムードをもりあげていますよね。アルバム・ラストにある後者はギター一台だけの伴奏で淡々とシンプルにアンナが心境をつづっているのが沁みます。
ジャズ・ソングじゃないもののなかでは、個人的にディランの9曲目「マイ・バック・ページズ」が特に印象に残りました。このギター・アレンジがいいですよね。この曲での伴奏もまたギターだけです。颯爽としているし、アンナの歌いかたもカッコイイです。この歌はディランが過去の自分と一線を引く内容なんですけど、アンナもまたヒットを飛ばして15年経って、その間試行錯誤があったみたいで、過去をふりかえり決別し、前に進みたいという気持ちがあるのでしょうか、「あのころの自分よりもいまはもっと若い」のだと。それにしても各種ヴァージョンと比較して、格別カッコいい「マイ・バック・ページズ」ですね。
(written 2020.1.1)
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