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2020/02/11

歪んだ音ほど美しい(2)〜 チック・コリア in マイルズ『ブラック・ビューティ』

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https://open.spotify.com/album/3qFhhUSLJxUKrRIbmcDo11?si=2_3tmJEcQI6XkELDppGIKw

 

グレイトフル・デッドの前座で1970年4月10日にサン・フランシスコのフィルモア・ウェストに出演したマイルズ・デイヴィス・バンド。このときは9〜12日と四日連続公演のメイン・アクト(二部)は日によって違いますが、一部のマイルズはずっと出ています。そのなかからフルに公式発売されているのは、73年にまず日本でだけレコード二枚組でリリースされた10日分の『ブラック・ビューティ』だけ。

 

ところで関係ない話からしておきますとこの『ブラック・ビューティ』、レコードで二枚組、CD でも二枚組、だから配信でも二つになっていますが、この1970/4/10のマイルズ・ライヴはワン・ステージでした。聴けばわかることですけれども、二枚になっているということで二部構成だったんじゃないかと誤解なさるかたがいらっしゃるかも。ツー・アクトのフィルモア公演の第一部出演ですから、ライヴはワン・ステージだけです。一回だけ。1時間19分という長さ(はワン・ステージと思えないほどですが)なので、二枚になっています。

 

さてこの日のライヴはチック・コリアのかっ飛ばしぶりがものすごいんですよね。なんなんですか、このフェンダー・ローズのナスティでダーティな音色は!?濁りに濁り歪みに歪んでいて、こんなの聴いたことないですよ。マイルズ・バンドとチック・コリアとフェンダー・ローズといえば、前年1969年バンド、いわゆるロスト・クインテットからいっしょですけど、こんなものすごいサウンドじゃありませんでした。この1970/4/10の『ブラック・ビューティ』、たぶんチックの生涯最高名演だろうと思います。

 

とにかく1曲目の「ディレクションズ」を聴いてみてくださいよ。こんなフェンダー・ローズの音色、ふつうありえませんから。アルバム『ブラック・ビューティ』全体でそうなんですけど、主役は完全にチックですね。チックがこの日のバンドを牽引していて、それは「ディレクションズ」の出だしを聴いただけでおわかりのはず。まずチックが出て、そこにリズムが参加してボスも出ますけど、チック出現の時点でもうその場の空気をかっさらっていますからね。

 

フェンダー・ローズだけでどうしてこんな汚い(最高にいい意味)サウンドが出せるのか不思議ですけど、ファズやリング・モジュレイターなどのエフェクター類を最大限に活用したということだったんでしょうね。もっと不思議なのはここまでダーティな音色を出しているフェンダー・ローズのチックは、マイルズ・バンド時代のライヴでもほかに見当たらないということなんです。

 

だからこの日だけのパフォーマンスだったということで、どうしてこの日に限ってこうなっているのか?なにかリキが入る理由があったんじゃないか、あるいはただの気分なのか、しかしエフェクター類をこの日だけ用意しておいたとも考えにくいから、ふだんは置いてあっても使わなかったということか?などさまざまな疑問がぼくの頭のなかを駆けめぐります。1970年だしサイケデリック・カルチャーのメッカ、サン・フランシスコだから?サイケ・ロック・ギターリストもよくファズとかワウとか使っていましたよね。チックは活躍中だからだれか本人に聞いてみて。

 

ともあれ『ブラック・ビューティ』1曲目の「ディレクションズ」。まずは冒頭小さくチックが出ますけど、(ミキシングのゆえか)音量が持ち上がるところからがザラザラしたサウンドで攻めるナスティ・チックの本番です。いや、その前、ジャック・ディジョネットが入ってくる前の出だし部分からチックはエレピにファズをかけていますよね。もうそこだけでザラザラしていて快感なわけですけど、これ、どうしてこんなナスティ、ダーティな音色になっているんでしょう?ファズ?

 

ジャック・ディジョネットが(エレベのデイヴ・ホランドも)入ってきてトリオ演奏になって、スネアかんかんでチックもナスティさ全開で盛り上がってきたところで満を持してマイルズが出ますね。チックはぐわんぐわんとリング・モジュレイターでかましていて、ボスとのかけあいもスリリングで最高じゃないですか。トランペットが高らかに一閃すればチックも強く激しく鍵盤を叩きエフェクトをぐわんとかましていますよね。いやあ、すごい、すごすぎる。シビレます。

 

「ディレクションズ」でマイルズが吹いているあいだじゅうずっとチックはこんな音色で激しく攻めているんですね。二番手スティーヴ・グロスマンのソプラノ・サックス・ソロになるとおとなしくなるのがちょっと意外ですが、三番手で自分のエレピ・ソロになれば、ここは自分の場!とばかりに過激なフレーズと音色を連発。いやあ、快感ですね。こんな「ディレクションズ」、こんなナスティなチックはほかには一個もないんですよね。

 

2曲目以後も、曲によってパートによってはクリーン・トーンで弾いている時間もありますが、全体的にチックはフェンダー・ローズにエフェクターをかませて音色を歪めていますよね。まるでハード・ロック・ギターリストみたいに。この鍵盤奏者、このほんのちょっとあとにリターン・トゥ・フォーエヴァーというバンドをはじめて、フェンダー・ローズでの澄んだきれいなサウンドで一斉を風靡することになったのはみなさんご存知のとおりです。それもいいんですけど、ぼくにはこんな歪み濁った汚い音色で過激に突き進むチックこそ大好物なんです。

 

3曲目「ウィリー・ネルスン」でのフリー・インプロヴィゼイション・パートもすごいし、二枚目1曲目「ビッチズ・ブルー」でも音色がダーティでかっ飛んでいますよね。最初クリーン・トーンで弾きだしていますがだまされちゃいけません、すぐにギャワ〜ン!となってしまっています。その切り替えのエフェクターのスイッチをオンにする瞬間のブツッという音も入っていますね。最高に楽しいじゃないですか。大好きです、こういうの。

 

ライヴ・ラストの「スパニッシュ・キー」でのチックは、冒頭の「ディレクションズ」と並ぶローズの音色のダーティ&ナスティさ。演奏終了の合図「ザ・テーマ」終了時にこれまたリング・モジュレイターでグワングワンと。エレピのグワングワンでマイルズ・バンド出演終了となってしまうんです。なんじゃこりゃ!すげえ!こんなチック・コリア、ほかじゃあ絶対に聴けません。これがチックの生涯ベスト・パフォーマンスでしょう。

 

(written 2020.1.22)

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