« ”あのころ”の空気感 〜 ザ・ジャズ・ディフェンダーズ | トップページ | ジャズ・ダンスなサルサ・コンピレイション 〜『ソル・ヴァイブレイションズ』 »

2020/02/08

ダンス・ミュージックとしてのモダン・ジャズ

9cadaf84af8540f8855db01a6ce05394 7d77aae43d544c1b8de607f24d714e6c

https://open.spotify.com/playlist/1OAOMYbP4EDgKstUio9FdD?si=GRfrwHFVQ4y6OGRurch5Mg

 

昨日書いたジャズ・ディフェンダーズ。そのなかでリンクを貼った萩原健太さんのブログ記事にあった以下の一節には、とっても激しくうなずいちゃいました。いや、まったく同感です。健太さんがぼくの気持ちを代弁してくれている!と猛烈にうれしくなったんです。

 

---------------
ぼくは1950年代のファンキー・ジャズをR&Bインストの一環ととらえて踊りながら聞くとか、そういうのも楽しいですよね、と発言して、重鎮さんから鼻で笑われたものだ。そういうことを大声で言うもんじゃない、恥ずかしい、と諫められた。

40年近く前だ。大昔の話。おっかなそうなクロートさんがやけに難しく、ありがたそうにジャズを解説しつつ、“鑑賞”するみたいな風潮がまだ幅をきかせていたころ。今にして思えば、そんな時代もあったのだなぁ、と遠い目になる。
----------------
https://kenta45rpm.com/2020/01/09/scheming-the-jazz-defenders/

 

このくだり、完璧に健太さんに共感できちゃいますよねえ。そう、ぼくにとってもハード・バップとはそういったものなんです。ダンス・ミュージック。聴きながら踊る、すくなくとも手拍子をとったり、指や肘を動かしたり、思わず腰や膝を揺すったりする、そういったものなんですね、ジャズって。この一点においては(ぼくのなかで)戦前古典ジャズもビ・バップもモダン・ジャズもかわりありません。

 

今日いちばん上でリンクを貼ったのは、ブルー・ノート・レーベル公式配信プレイリスト『ブルー・ノート・ブーガルー』(2018)#BlueNoteBoogaloo ですけど、たとえばですよ、これのオープナーになっているリー・モーガン「ザ・サイドワインダー」を聴いて、腰や肩や膝が動かないっていうひとがはたしているのでしょうか。これをジッと目をつぶってありがたくおしいただく、鑑賞するなんていうリスナーがこの世にいるでしょうか。

 

そんなリスナーがいたとしたらウソだとしか思えないですけど、実際にはぼくがジャズを聴きはじめた約40年前でもたくさんいらっしゃったことを忘れたわけじゃありません。その典型がむかしの日本のおしゃべり禁止ジャズ喫茶のお客さんたちとマスター(ママ)。モダン・ジャズとはアートだ芸術なのだ、キビシクまじめに耳を傾けなくちゃならない、それで聴きながら沈思黙考するのであ〜るっていう、そういった考えかたのみなさんが、ぼくの周囲にもむかしはそりゃたくさんいたもんです。

 

リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」やハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」や、それらに象徴されるジャズ・ロック、ソウル・ジャズの流れにあるものであれば、それでもまだダンサブルであるという認識がすこしあったかもしれませんが、ごくふつうのストレートなメインストリームのハード・バップともなれば、そりゃあもうジャズ喫茶のなかでみんなが石仏のように静まりかえり難しい顔になって、ひとことも発さず、もちろん膝や肩を揺すったりなんか1ミリもせず、そんなことしようものならにらまれて、微動だにせずただただ観賞していたもんですよ。

 

しかし考えてみれば、ハード・バップとリズム&ブルーズは親戚関係にあります。ビ・バップとリズム&ブルーズが兄弟で、どっちも1930〜40年代のカンザス・シティ・ジャズ〜ジャンプ・ブルーズを源流、母として誕生したものなんですね。えっ?あんな汚らしい音楽とモダン・ジャズが血を分けたものだなんて、ウソだぁ〜っ!と言いたくなる気持ちは理解できないわけじゃありません。

 

たとえば1940年代最大の黒人スター、ルイ・ジョーダンのことを考えてみましょう。ルイの音楽を聴いて、どなたが聴いても、これはジャズである、スウィング・ミュージックである、いや、ジャンプだ、うん、ロックしているんじゃない?と、さまざまな表現が可能じゃないかと思うんですね。実際のところルイはジャンプ・ミュージックの人物として扱われることが多いんですが、出自はジャズ界にあるんですよね。
https://www.youtube.com/watch?v=c8uxrypkqv4

 

リズム&ブルーズを直接的に産んだジャンプ・ミュージックですが、ジャンプとスウィング・ジャズ、特に黒人スウィングとは区別できませんからね。黒人スウィングがそのままジャンプをやるようになったわけなんです。たとえばライオネル・ハンプトン。ハンプはご存知スウィング・ジャズのヴァイブラフォン奏者で、1930年代にはスウィング界最大のスター、ベニー・グッドマンのコンボで活動していましたが、40年代に入って自分のビッグ・バンドを持つようになると猛然とジャンプするようになったんですからね。音楽的にはジャズですけど、そのままジャンプと呼ばれるようになったんです。
https://www.youtube.com/watch?v=Lbh8RUfAkA0

 

ってことはつまり、ブラック・スウィングもジャンプも区別できないっていうのが間違いないところで、そのジャンプはそのまま1940年代末から50年代にかけて、直接的に、リズム&ブルーズへと姿を変え、しかも同時にチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらビ・バッパーをも産んだのです(バードもディジーもジャンプ・バンドの出身ですから)。油井正一さんが「ブギ・ウギ、バップ、8ビート・ロックには明らかな公分母がある」とおっしゃったゆえんです(『ジャズの歴史物語』アルテスパブリッシング、p.90)。

 

同箇所で油井さんも指摘なさっていますが、最大のキー・ポイントは黒人感覚、日常の挙措とダンス感覚に根差した黒人のリズム・フィールが音楽のなかに持ち込まれているという点でです。黒人音楽である(ブラック・)スウィングも、(ブギ・ウギを基底に置く)ジャンプも、リズム&ブルーズも、そしてビ・バップも、同種のリズム感覚を共有しているんですね。パーカー在籍時のジェイ・マクシャン楽団の録音をちょっと聴いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=eNKavSl2HG4

 

この「コンフェッシン・ザ・ブルーズ」(歌はウォルター・ブラウン)は1941年の録音。リズム&ブルーズの歴史を飾る第一号にして、同時にここにはパーカーがいるんですね。ソロなど吹きませんが、これが A 面になっていたレコードの B 面がバードをフィーチャーした「フーティ・ブルーズ」。これをお聴きになれば、もはやビ・バップの祖型があると理解していただけるのではないでしょうか。同一楽団による一枚のレコードの A 面がリズム&ブルーズ、B 面がモダン・ジャズだったのです。というか「フーティ・ブルーズ」でもブラウンが歌っていますから、一曲のなかにリズム&ブルーズとモダン・ジャズが共存しているとも言えるんです。
https://www.youtube.com/watch?v=scqZJ3NL_xg

 

今日いちばん上で引用した萩原健太さんの発言は、もちろんこういった歴史的経緯をふまえた上でのものですけれど、そうでなくとももともと若いころからハード・バップにリズム&ブルーズ的(というかロック的な)ダンス感覚があると、直感的に感じとって、それで踊っていたということだと思うんですね。ぼくもそう。今日書いたような、ブギ・ウギ、黒人スウィング・ジャズ、ジャンプなどとモダン・ジャズやリズム&ブルーズ(ロック)との歴史的関係はずいぶんあとになって学んだだけのことです。

 

もとはといえば高校〜大学生のころにモダン・ジャズを聴いて、これは楽しく踊れるなあというかリズムがとれるし、実際手や足や腰が動いてしまうというのを、ジャズ喫茶のなかですらも、体験していたその原初的なというか初心者感覚がもともとありました。モダン・ジャズとリズム&ブルーズ(ロック)は、ヴォーカルを抜いて楽器演奏だけにしてしまえば感覚的にとくに違いはないぞと、身をもって実感していたことなんですね。理屈はわかっていませんでした。ただ楽しかったんです。

 

健太さんは「1950年代のファンキー・ジャズ」と限定されていますけれど、たしかにファンキー・ジャズはダンサブルですよね。そもそもモダン・ジャズはダンス・ミュージック(とすくなくとも関連がめっちゃ深い)なのだと、上の段落まででぼくは今日強調しましたけれど、それを抜きにしても、モダン・ジャズにゴスペルやソウルなどの音楽要素をプラスしたのがファンキー・ジャズですからね。

 

ぼくの見方では、1960年代になって踊れないフリー・ジャズが勃興するまでは、ほぼどんな種類のジャズでも、アーリー・ジャズでもビ・バップでもハード・バップ全般でも、それにあわせてダンスすることができるんだと40年前から感じてきたし、いまでもこの意見はちっとも間違っていないと確信しています。フリー・ジャズがジャズからダンスを奪ったのち数年で、ファンキーなソウル・ジャズやジャズ・ロック系のものが台頭し、そのまま1960年代末〜70年代のジャズ・ファンクへとつながったのは、いま考えたらジャズ・ミュージックの持つ根源的ダンス遺伝子の顕現だったと思いますね。

 

(written 2020.1.21)

« ”あのころ”の空気感 〜 ザ・ジャズ・ディフェンダーズ | トップページ | ジャズ・ダンスなサルサ・コンピレイション 〜『ソル・ヴァイブレイションズ』 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ”あのころ”の空気感 〜 ザ・ジャズ・ディフェンダーズ | トップページ | ジャズ・ダンスなサルサ・コンピレイション 〜『ソル・ヴァイブレイションズ』 »

フォト
2020年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ