ひそやかな愛の世界 〜 ゼ・レナート
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ゼ・レナート(ブラジル)の新作『O Amor é um Segredo - Zé Renato Canta Paulinho da Viola』(2019)は、副題どおりパウリーニョ・ダ・ヴィオーラ曲集。これがやわらかでたおやかで、とってもいいんです。曲はサンバ・ソングばかりですけど、ゼはどれもボサ・ノーヴァにアレンジしてやっていると言っていいできばえで、それも聴いていて心地いいんですね。
このアルバム、ちょこっと管楽器が入る曲もありますが、基本ゼのナイロン弦ギター弾き語りでできています。+シェイカーだけとか、その他ちょっとの打楽器とか、その程度なんですね。管楽器が入る曲でも実にシンプルな使われかたで、あくまで主役はゼのギターと歌。このふたつだけでアルバムが進行するといってさしつかえないほどなんです。
そういったシンプルな落ち着きがパウリーニョの曲をあざやかに描き出していて、好感が持てますね。ボサ・ノーヴァ・スタイルのアレンジにも静けさがあります。まず1曲目の歌い出し部分、まだリズムが入ってきていないテンポ・ルパート部でのやわらかさに惹かれますが、しばらくやってすっとシェイカーが入ってきてギターといっしょにおだやかなリズムを刻みはじめてからも、この表情にかわりはありません。むしろ落ち着きを増したかのよう。
こういった(ギターと歌だけみたいな)シンプルすぎる音楽では、演者の力量と、それから楽曲そのものが持つ本来の力、魅力がむきだしになるなと思います。ゼのこの新作ではどっちもきわだってすばらしく、聴いていて心地よく、あっという間にアルバムが終了しての後味もさっぱり快感なんですね。ひそやかな個人的な愛の世界を、こうやって淡々とつづるサンバ〜ボサ・ノーヴァの世界の滋味深さをあらためて思い知るアルバムです。
(written 2020.2.8)
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