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2020/03/04

尼僧の色気 1977 〜 ギル「プリースティス」

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https://www.youtube.com/watch?v=eTrLU88HCNE

 

ギル・エヴァンズ・オーケストラ1977年5月13日のニュー・ヨーク・ライヴから収録したアルバム『プリースティス』(1983)では、もうなんといってもレコードの A 面全体を占めていた曲「プリースティス」(ビリー・ハーパー作)があまりにもすばらしすぎますよね。以前一度書いたのではありますが、余計なこともたくさん言っていたり肝心の演奏については書き足りなくて、自分で不満が強いですから、今日あらためてもう一回書いておくことにします。

 

鍵盤シンセサイザーの地を這うような重低音に続き、同じ音程・同じフレーズをチューバがなぞり、二名合体で重厚な雰囲気のあるイントロを演奏していますが、もうこの部分からしてなんだか尋常じゃないぞと感じることができますね。そのパートではパーカッション兼ドラムスもいろどりを添え、定常ビートが刻まれはじめるとエレキ・ギターも入ってきます。

 

ところでキース・ラヴィングの弾く右チャンネルのエレキ・ギターはこの「プリースティス」全体をとおしてよく効いているなと思うんですね。目立つのは最初と最後のテーマ合奏部のオブリガートと、三番手アーサー・ブライスのアルト・サックス・ソロの伴奏でといった、ほぼそんな程度ですけれども、この艶やかな音色と斬り込みの鋭角的なフレーズで、曲の演奏全体に深みをもたらしていますよね。

 

最初のテーマ合奏を聴いただけで心地いいですが、そのまま切れ目なくアンサンブルの一角を形成していたデイヴィッド・サンボーンのアルト・ソロへとなだれこみ。サンボーンがとてもあのサンボーンと同一人物だとは思えないほどのこの大活躍ぶりで、ぼくなんか1983年にこれを聴いて「あ、軟弱フュージョンのひとじゃないんだ、しっかり吹けるんだ」と見なおしましたからねえ。1977年の演奏です。

 

サンボーンのソロはリズムへのノリもいいし、色っぽい湿ったサックスの音色で(それはこのひといつもそうだけど)聴き惚れちゃいます。ソロ前半部で小節数をカウントしまちがえ、ちょっと立ち止まってやりなおす箇所もぼくはあんがい好きですね。勢いがある証拠だし、これだけの音色でこんなに艶やかに吹きまくられたらだれだって降参ですよ。いやあ、このサンボーンのソロは実にいい。ソロ後半で伴奏のホーン・アンサンブルが入るところでのソロのリズム感のいいフレイジングなんかも絶品じゃないですか。

 

二番手でトランペット・ソロを吹くルー・ソロフは、ボスのピアノはじめバックの音をとてもよく聴いています。それで反応も上々なんですね。実を言うとぼくはルー・ソロフの音色があまり好きじゃないのですが、この演奏ではとてもよく聴こえるので不思議です。バンド全体のサウンドがいいっていうことなんでしょう。特にしばらく吹いてからドラムスのスー・エヴァンズがスネアでアフター・ビートを強調するようになるでしょう、そこからが大好きです、跳ねていて。

 

ルー・ソロフのソロ部分では、だからバンド全体のサウンドがいいっていうか躍動しているな、相互反応が活発で演奏が生きているなと感じるんですね。スー・エヴァンズもボスのピアノをよく聴き、それに即応して叩きリズムを編み出しているし、そういったことはオーケストラ全体について言えることなんです。トランペット・ソロ終盤で、サビに入ると突如ラテン・リズムになるところもいいですね。ルーもそのリズムに合わせて吹いているのが好印象。

 

次の三番手アーサー・ブライスのアルト・ソロになると、さっとオーケストラが引いてサウンドがおとなしく静かになるのもおもしろいところです。ほぼアルト独奏というに近い状態となっていますが、そんなスカスカ・サウンドに乗ってくりひろげられるそのアルト・ソロがこれまた絶品で、耳を奪われますね。同じアルトでもソロ一番手のサンボーンとは音色からなにからぜんぶタイプが異なっているのがいいコントラストで聴きどころです。

 

サンボーンのアルト・ソロは(ルー・ソロフのトランペット・ソロもかな)、ビリー・ハーパー作のこのパッショネイトな曲「プリースティス」の雰囲気をそのままストレートに表現したような演奏で、メラメラと燃える炎の輝きを表に出している感じがしますよね。三番手ブライスのアルト・ソロは反対に、炎の煌めきをぐっと内側に折り込んで、内に秘めた情熱を静かにおだやかに表出しているという印象を受けます。

 

だからこそ、ぼくにはそんなブライスのアルト・ソロのほうがパッションやセクシーさはより深いように感じられて、このソロのことを大学生だった1983年当時からずっと愛聴しています。聴くたびになんて色っぽいんだろうとため息をもらすほどなんですね。背後にはほとんど伴奏がありませんが、エレキ・ギターとパーカッションとベースがほんのかすかに、遠慮するかのようにとぎれとぎれに音を入れているのも印象的で、ブライスもそれにうまく反応しながらソロを展開していますよね。

 

ブライスのソロ部ではいまにもバンドの演奏が止まりそうなほどなんですが、そんなスリルも聴いていて楽しいし、なんたってブライスのアルト・ソロ部でのこの音色やフレイジングの色艶に聴き惚れちゃいますね。ときおりフリーキーな音色に展開するあたりも美しく、スケール・アウトしてもすぐ戻る節度もみごとです。

 

最終テーマは最初のテーマ演奏回よりもアンサンブルの和音カラーを増し、トランペット・セクションも活用して(って三名だけど)派手に終わるかと思いきやスーッと静かになって、サックス・セクションがフルートに持ち替え、まるで風が吹き抜けるかのごとくさわやかにフェイド・アウトします。

 

(written 2020.2.7)

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