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2020/04/12

I've Loved These Days 〜 ビリー・ジョエル『ソングズ・イン・ジ・アティック』

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(8 min read)

 

Billy Joel / Songs In The Attic

https://open.spotify.com/album/2Vf4bohoWVk1YlPR2uNOFd?si=rbvYHEwXTk-m6EeuyV18qg

 

『グラス・ハウジズ』(1980)のリリースにともなう全米ツアーから収録されたビリー・ジョエルのライヴ・アルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック』(1981)。屋根裏部屋の曲たちとなっているのでもわかるように、このアルバムに収録されているのはビリーが『ザ・ストレンジャー』(77)でブレイクするその前に発表された初期曲ばかりです。

 

1977年の『ザ・ストレンジャー』ではじめてプロデューサーにフィル・ラモーンを迎えたビリー・ジョエル。このアルバムはなんでも1000万枚以上も売れたんだそうで、まさしくビリーがビッグ・スターになっていくブレイクスルーでしたよね。それまでの彼は売れないピアノ・マン兼シンガー・ソングライターでしかなかったわけで、しかし曲はいいものを書いていましたから、だから大ブレイクして功成り名遂げた1980年にキャリア初のライヴ・アルバムを制作するとなって、無名時代の曲々に焦点を当てたいと思ったのはある意味当然です。

 

それはソングライターとしてのビリーのプライドみたいなものだったでしょうし、売れなかった時代の埋もれてしまった曲たちを、いま現在の自分の人気と名声でもって蘇らせたいという願望の反映でもあったでしょう。人気が出る前にもぼくはこれだけいい曲を書き歌っていたんですよと(レコードを買う)大聴衆に向かってアピールしたかった、そんな思いもあったのではないですか。ライヴではそれまでも歌ってきたものですけれども、いざ初のライヴ・アルバムを出そうとなったときのそのビリーの気持ちをぼくは考えます。

 

そう、つまり1980年の『グラス・ハウジズ』全米ツアーに限らずその前からキャリア初期の曲をビリーはライヴでたくさん歌ってきていました。彼がレギュラーのツアー・バンドを持ったのは1977年。その後ライヴ・ツアーではもちろん当時の有名ヒット曲もたくさん歌っていて、ぜんぶひっくるめたそんななかからあえて無名の初期曲ばかりをピック・アップして、自身初のライヴ・アルバムをそれで構成することにしたんですよね。

 

アルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック』収録曲のオリジナル・スタジオ作品を、以下に一覧にしておきました。こうやって整理してある文章に出会ったことがありませんから。

 

1) Miami 2017 (Turnstiles)
2) Summer, Highland Falls (Turnstiles)
3) Streetlife Serenader (Streetlife Serenade)
4) Los Angelinos (Streetlife Serenade)
5) She's Got A Way (Cold Spring Harbor)
6) Everybody Loves You Now (Cold Spring Harbor)
7) Say Goodbye to Hollywood (Turnstiles)
8) Captain Jack (Piano Man)
9) You're My Home (Piano Man)
10) The Ballad of Billy The Kid (Piano Man)
11) I've Loved These Days (Turnstiles)

 

・Cold Spring Harbor 1971
・Piano Man 1973
・Streetlife Serenade 1974
・Turnstiles 1976

 

無名時代の初期曲といいましても、アルバム『ターンズタイルズ』は(西海岸から)ニュー・ヨークへ帰還しての録音ですし、翌年にレギュラー・バンドを結成する録音パーソネルだってもうかなり揃っています。ソングライティング・クラフトも向上しているし、声だって円熟期に入ってきているんですね。ビリーが世界的大スターになったのはあくまで『ザ・ストレンジャー』以後ということで、『ターンズタイルズ』の曲もここには収録されているというわけでしょう。

 

その『ターンズタイルズ』はもちろんのことその前の『ストリートライフ・セレナーデ』『ピアノ・マン』も、ぼくがビリー・ジョエルを知った1977年ごろふうつにレコードが買えました。松山市内の小さなレコード・ショップでも問題なく流通していたんです。だからそれらを買って聴いていてどんな曲があるのか知っていたぼくとしては、1981年の『ソングズ・イン・ジ・アティック』で聴いての驚きみたいなことはありませんでした。

 

初聴だったのはデビュー作『コールド・スプリング・ハーバー』の収録曲ですよ。コロンビアと関係のある小さなインディ・レーベルから発売されたアルバムで、ほとんど売れずすぐに廃盤になってそれっきり。ぼくがビリーのことを知ったころは『ピアノ・マン』がデビュー作であるかのような扱いで、読みかじる情報ではなんだかそれ以前に一個あるらしいぞ、まぼろしの処女作が、でもだれも聴いたことがないっていう、そんな感じで、もちろん『コールド・スプリング・ハーバー』のレコードなんか買えません。東京でもニュー・ヨークでも買えなかったんじゃないですか。

 

これがいきわたるようになったのはコロンビアが音源の権利を買いとって1983年にリイシューしてからのこと。83年ですからビリーは大スター。そのまぼろしのデビュー作ということで、そのときはじめてぼくは『コールド・スプリング・ハーバー』のレコードを買ったんです。ってことは81年の『ソングズ・イン・ジ・アティック』収録のうち、「シーズ・ガット・ア・ウェイ」と「エヴリバディ・ラヴズ・ユー・ナウ」は、このライヴ盤で初めて聴いたことになりますね。

 

また、上で書きましたように『ターンズタイルズ』を録音したメンバーはすでにバンド・レギュラーになりつつあったひとたちですが、それ以前の西海岸録音の三作ではビリーはスタジオ・セッション・ミュージシャンを起用しています。だから、ツアー・バンドでやったらどうなるかみたいな楽しみだって(ビリー自身もぼくたちも)あったんじゃないかと思うんですね。基本的にはスタジオ・メンでやったオリジナル・ヴァージョンに即していますが、ライヴでは演奏に生硬さがなくこなれていて、ライヴならではの抑揚やメリハリはやや強めにつけて、いっそう聴きやすくなっていますよね。

 

ブレイク前の無名時代にもこれだけ優秀な曲をたっぷり持っていたビリー・ジョエル。音楽的な面での未熟さ、若さゆえにブレイクしなかったとは、これらを聴くと考えにくいと思います。プロデューサーの選択はじめ、ちょっとしたきっかけさえあればいつでもヒットしたというだけの充実をみせていたようにぼくには聴こえるんですね。ブレイク後の歌と演奏で聴くからという面があるかもしれませんが、無名時代にソングライターとしてのビリー・ジョエルはすでに完成していたと思います。

 

修行時代、無名時代といっても、書きましたように『コールド・スプリング・ハーバー』以外は問題なくレコードが買えたんですから、曲も知っていたし、実力のほどを個人的には知っていたつもりでした。だから本当のことを言うと、ビリーのキャリア初のライヴ・アルバムが出るとなったとき、ぼくは「ザ・ストレンジャー」「素顔のままで」「ニュー・ヨーク・ステイト・オヴ・マインド」など有名曲のライヴ・ヴァージョンが聴けるんじゃないかと、それを聴きたいぞと思っていましたから、ちょっぴりガッカリしたというのが事実でした。

 

それでもレコードを買って聴いてみたら、やっぱりソングライターとして初期からビリーは充実していた、いい曲を書いていた、有名になってからのたくさんのヒット曲と並んでもそれら初期曲、つまり屋根裏部屋に置きっぱなしになっていた曲たちだって、歌いなおせば輝けるじゃないかと、そう実感したのも間違いないことだったんですよね。

 

アルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック』に有名ヒット曲は一つもありません。でもだからこそかえってビリー・ジョエルというソングライターの若き日からずっとの充実を聴きとることができるように思いますし、アルバム『ザ・ストレンジャー』『ニュー・ヨーク52番街』などに収録の品々と比較してなんら遜色のないいい曲が揃っているのはおわかりいただけるはずです。それらを最充実期の歌と演奏で聴けるんですから。

 

(written 2020.3.1)

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