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2020/04/06

誠実さとカリスマ性をあわせ持つリアノン・ギドゥンズ『フリーダム・ハイウェイ』

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(5 min read)

 

Rhiannon Giddens / Freedom Highway

https://open.spotify.com/album/1CVuPxNHwY5ORJ8MhjD0UB?si=9XIlUH2PSyqXk9os0XYyRQ

 

おととい書いたアワ・ネイティヴ・ドーターズの中心人物リアノン・ギドゥンズ。といってもキャロライナ・チョコレート・ドロップスふくめぼくは初邂逅の音楽家でしたので、すこし調べたり Spotify でさがしていろいろと聴いたりして、結局ソロ名義の2017年作『フリーダム・ハイウェイ』がいちばんぼくの好みピッタリどまんなかなであると知りました。

 

今日の記事タイトルは、ネットで見つけたピーター・バラカンさんのリアノンにかんする文章から拝借したもので、バラカンさんおっしゃるには「リアノン・ギデンズは珍しくルーツ・ミュージックに必要な誠実さとエンタテイナーに不可欠なカリスマ性を両方兼ね備えている歌手」とのことです。ぼくがこの音楽家に感じとっている魅力をまさしく言い当てた表現なので、いただきました。『トゥモロウ・イズ・マイ・ターン』(2015)についての文章ですけどね。
https://www.arban-mag.com/article/30938

 

だいたいがアメリカーナの音楽家って誠実さっていうか真面目さが先行しすぎているような印象がぼくにはあって、理知的なのはいいんだけど、もうちょっと娯楽性というか、音楽なんだから聴いて楽しくないと、一途に探求するばかりではおもしろい音楽作品が仕上がらないよと感じることもあるんですね。リアノンの、特に『フリーダム・ハイウェイ』はみごとにそこをクリアしているなと聴きました。知的で真面目でありかつ、一級品のエンターテイメントとして充実しているんですね。

 

知的にというか観念的な次元で再構築された種々のルーツ音楽統合、という印象があるアメリカーナですが、リアノンの音楽には肉感的なナマナマしさをもぼくは感じとっていて、『フリーダム・ハイウェイ』ではそれら両者が高度に昇華されているんじゃないでしょうか。このアルバムでいちばんぼく的にグッと来たのはリアノンの声のセクシーさとホーン・セクションの使いかた、それから黒人問題に題材をとった選曲や曲づくりです。

 

アルバム・ラストに収録されているタイトル曲「フリーダム・ハイウェイ」はローバック・パップス・ステイプルズが書きステイプル・シンガーズで歌った1965年の曲。人種差別に対する NO を歌い込んだ公民権運動まっただなかの音楽でしたよね。この一曲をやってアルバム題にもしようと思ったところに、この作品でリアノンがなにを目論んだのか、よくわかるんじゃないでしょうか。

 

つまりアルバムのテーマとなっているものは、1800年代の奴隷時代にはじまり、1960年代の人権運動や、さらに今日でもメディアをにぎわせている(ファーガスンやボルティモアの)人種差別に対する抗議運動などといった、アメリカで黒人たちが200年ほどにわたって体験してきていることがらなんですね。そういった意図に沿った曲が並んでいるなと思います。

 

しかしアルバム『フリーダム・ハイウェイ』で特筆すべきは、そういったテーマの深刻さと並び、サウンドだけでもじゅうぶん訴えかけるものを持っているということです。その点、このアルバムからそのままテーマを引き継いだような(事実上の次作にあたる)アワ・ネイティヴ・ドーターズの作品(2019)はイマイチ物足りない部分もありました。理念先行型で、音楽的な中身がややついてきていなかったかも?と思うんです。

 

『フリーダム・ハイウェイ』でもリアノンの弾くバンジョーがサウンドの軸になっていますが、それだけでなくヴォーカルが生々しくセクシーで、それゆえにこそ音楽好きにアピールできる要素があるなと感じます。またホーン・セクションというか管楽器の使いかたがジャジーで楽しいっていうのも大きなメリットで、たとえば5曲目「ベター・ゲット・イット・ライト・ザ・ファースト・タイム」でもホーン・リフが効果的に使われています。この曲ではヴォーカルも力強くていいですね。

 

さらに7曲目の「ヘイ・ベーベー」ではプランジャー・ミュートをつけたトランペットが大活躍していて、これもなかなかの聴きものです。かなりジャジーですし。ミュート・トランペットはこのアルバムの随所で活躍しているし、ある種サウンドの肝になっているような気もするんですね。その激しくえぐるようなジャジー なサウンドが、このシリアスなリアノンの音楽に実に巧妙な娯楽性を与えているんじゃないでしょうか。ジャズということもアルバムのひとつのキーになっているかも。

 

それがいちばんよくわかるのが、タイトルになっているアルバム・ラストの「フリーダム・ハイウェイ」で、11曲目のバンジョー・インストルメンタルに続くこの曲ではバンジョーなし、ホーン・アンサンブルがサウンドの主役なんですね。それもぐいぐいともりあがる反復で、聴いているこっちの気分も高揚します。リズムやヴォーカル・コーラスやオルガンなど、黒人ゴスペル・ミュージック・スタイルで昂まっていくなかにホーンズ(特にトランペット)も活きていて、リアノンやコーラスのヴォーカルの躍動感とあわせ、こりゃあ最高です。

 

すばらしい傑作です。愛聴作になると思います。

 

(written 2020.2.26)

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