もしもギターが弾けたなら(その2)〜 ジョアン・カマレーロ
(4 min read)
João Camarero / Vento Brando
https://open.spotify.com/album/2cdUpZDv2oaZOecRilf45A?si=w4bi13UhTBig_0_5wuj-Ow
どうして男性ショーロ・ミュージシャンってみんな(でもないけど)ヒゲを生やしたがるのでしょう?アキレス・モラエス(トランペット)なんかすごいんですよ、と、体毛が生えない体質のぼくなんかはうらやましく感じたりもしますが、音楽になんの関係もないどうでもいい話ですたゴメンニャサイ。
ブラジルの七弦ショーロ・ギターリスト、ジョアン・カマレーロの新作『Vento Brando』(2019)が今日の話題です。聴いた感じ、クラシックのソロ・ギター作品と区別つかないなあと思うんですけど、たしかにこのジョアンのソロ・アルバムにもシリアスな雰囲気が漂っています。ギター一本でのソロ作品となれば、どんなジャンルのひとがやってもクラシックに接近するのかなという気もしますね。
ジョアンのギターはいままでもちょこちょこと聴いてきたんですけど、どれもバンドのなかの一員として弾いているものばかりで、ソロとして全面的にフィーチャーされているのは『Vento Brando』ではじめて知りました。最大の印象は音のアタックがとても強いなということです。そのおかげで輪郭が鮮明でシャープなサウンドに聴こえます。
しかも速弾きっていうか、難度の高い細かいフレーズを弾きこなす技巧もあざやかで、さらにどの演奏にもなんらの揺らぎも破綻もありません。細速フレーズの弾きこなしがあまりにもなめらかでスムースであるがゆえ、聴き手の耳にひっかからず流れていってしまうかも?という印象すらあって、流麗のひとことですよね。技巧の粋を極めたナイロン弦ギター独奏と言えるでしょう。
高速パッセージでもゆったりしたフレージングでも、音のすみずみにまで配慮が行き届いているのがよくわかりますし、どの音にも意味がありますよね。その音の意味をよりよく聴き手に届けるためなのか、演奏の緩急というかメリハリにも気を遣っているのも聴けばわかります。メロディやフレイジングの美しさがおかげでわかりやすくなっているんじゃないでしょうか。
アルバムの曲のなかでは、個人的に、たとえば5曲目の「エニグマ」。ちょっとエキゾティックというかスペインふうなメロディとリズムを持った曲で、これなんかにも強く惹かれます。どんな音楽でもぼくがアンダルシア香味に弱いのはマイルズ・デイヴィス体験のせいなんでしょうか。ジョアンのこの演奏は、ロック・ギター界で言うところのトゥワンギーな感じがして、たいへんに好みですね。
続く6「パウリスターノ」、7「ヴェント・ブランド」と本当に聴き惚れる演奏が続きますが、静かで落ち着いた雰囲気のなかにパッションをも表現しているのが好きですね。そんなところは、続く8、9曲目でさらにわかると思います。この二曲にはジョアン・カマレーロの師匠ジョアン・リラがゲスト参加、9曲目にはカヴァキーニョ奏者も加わっています。
リラとのデュオ演奏である8「マカラス」にはカリブ音楽ふうなリズム・ニュアンスもあって楽しくてニンマリしますし、最後は情熱的にもりあがるところもグッド。この二人にカヴァキーニョが追加された9「カンドラジーニョ」はポップなキュート・ショーロで、全体がクラシカルな感じに寄ったこのアルバムのなかではいちばん親近感があって聴きやすいかも。明るく楽しい雰囲気で実にいいですね。
(written 2020.5.4)
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