ホレス・シルヴァーのジャズ・ロック(1)〜『ユー・ガッタ・テイク・ア・リトル・ラヴ』
(4 min read)
Horace Silver / You Gotta Take A Little Love
https://open.spotify.com/album/2kJDQ8OaEInm5FJRkczmNe?si=L-iPe0Q7SGKMYzCUszTnzw
なにしろぼくのホレス・シルヴァー歴は、二年前にはじめて聴いてぶっ飛んで書いた『ザ・ケープ・ヴァーディアン・ブルーズ』までも長年届いていなかったくらいで、それは1965年の作品。たぶんその前作の『ソング・フォー・マイ・ファーザー』くらいまでしか聴いていなかったんじゃないですかね、ずっと。あぁ、なんてこった!どう考えても1960年代末ごろからのホレスにはカッコいいファンキーなアルバムがあるに違いないと踏んで、CD は持ってないので Spotify で洗いざらい聴きました。
そうしたら、もう次々と、あるなんてもんじゃないくらいある!ぜんぶファンキーでカッコいいアルバムばっかりなんですよねえ。ちょっと数回にわたってとりあげてみたいと思います。きょうは1969年の『ユー・ガッタ・テイク・ア・リトル・ラヴ』。このへんからじゃないですかね、ホレスがファンキーなジャズ・ロック、ジャズ・ファンク領域に踏み込むようになったのは。これのあとにはどんどんあるみたいです。
アルバム『ユー・ガッタ・テイク・ア・リトル・ラヴ』、1曲目のタイトル曲からしてすでにカッコいいファンキーなジャズ・ロックです。ちょうど1963年の「ザ・サイドワインダー」(リー・モーガン)の直系遺伝子みたいな曲ですね。タイトでファンキーなビートを叩き出しているのがビリー・コバム(コブハム)。ホレスもお得意のブロック・コード連打でキメています。ランディ・ブレッカー、ベニー・モウピンと続くソロもよし。
いやあ、もうこんなのまできたら、69年ですからちょっと遅かったなと思わないでもないですが、それでもじゅうぶんみごとなファンキーさですよねえ。いや、ロックっぽいかな。このアルバム『ユー・ガッタ・テイク・ア・リトル・ラヴ』でキモになっているのはやっぱりビリー・コバムのドラミングだと思うんですね。細かい8ビートを刻むシンバル・ワーク、跳ねるアフター・ビートを効かせるスネアなど、感覚的にも当時の新世代ジャズ・ロック・ドラマーといった感じがします。
ふつうのジャズ・ナンバーのことは飛ばしますが、2曲目「ザ・ライジング・サン」も1曲目同様のジャズ・ロック。3曲目の「イッツ・タイム」はラテン8ビートを使ってあって、こういうのはこの1960年代当時よく聴けたパターンですね。ビリー・コバムはスネアでそれを表現しています。二管のたゆたうようなアンサンブルもラテンな雰囲気満点。でもそのまますっと4ビートに移行しちゃいますけどね。ベニー・モウピンのテナー・ソロはそれでも新感覚派と言えるでしょう。
モウピンがフルートを吹く美しいバラードの4「ラヴリーズ・ドーター」なんかも、従来的なハード・バップ路線では聴けなかった曲想です。1970年代に入ろうとしているこの時代の感覚をホレスがしっかりつかんでいたというあかしになる一曲ですね。全体的にジャジーな5「ダウン・アンド・アウト」でも、モウピンのソロが出るところでパッとロック・ビートが効きはじめます。ここではソロはモウピンだけ。
そして6「ザ・ベリー・ダンサー」。これこそこのアルバム最大のクライマックスでしょう。曲題どおり中近東ふうを意識したんでしょうエキゾティックな一曲で、しかしメロディもリズムもアフロ・キューバンっていう、ちょっとおもしろいものなんですね。各人のソロ・フレイジングもラテンで楽しいですが(モウピンはフルート)、そのあいだリズムが止まったり進んだりとヴァラエティを持たせているのもホレスのアレンジの妙味でしょうね。ビリー・コバムの表現する快活な8ビートはこの曲がアルバム中いちばんでしょう。
アルバム・ラストの7「ブレイン・ウェイヴ」はジョン・コルトレイン・ジャズによく似た一曲。
(written 2020.6.18)
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