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2020/10/22

1950年代のレイ・ブライアントはおだやかだった

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(6 min read)

 

The Ray Bryant Trio / Ray Bryant Trio

https://open.spotify.com/album/6Tzji1A705579YT9chT8uq?si=7cUHkruLRTihk2iRUaojqA

 

ジャズ・ピアニスト、レイ・ブライアントの1957年プレスティジ盤アルバム『レイ・ブライアント・トリオ』のことを、どうしてだかこないだちょっと思い出し、実にひさびさに聴きかえしたりしていました。大学生のころは一番好きなレイのアルバムで、四年生のとき(だから1983年か)松山のジャズ喫茶でもソロ・ピアノ・ライヴをやったんですよ。そのときこの『レイ・ブライアント・トリオ』LP盤を持参して、ジャケットにサインをもらったという思い出もあります。

 

それでこの1957年『レイ・ブライアント・トリオ』はむかしからずっと聴き続けている愛聴盤ですし、もうこのブログですでに話題にしたはずだと思って検索しても出てこないんですね。ちょこちょこっと部分的に言及しているだけで。だからきょうここにはじめてこのアルバムのことをしっかり書き残しておこうと思い立ちました。いやあ、いいアルバムなんですよね。サインしてもらおうとご本人に見せたら(こんな古いものをと)ちょっとビックリしていましたねえ。

 

1983年に体験した松山の小さなジャズ喫茶でのレイのソロ・ピアノ・ライヴは、エイヴリー・パリッシュの「アフター・アワーズ」などブルーズ・ナンバーを中心とするもので、やはり『アローン・アット・モントルー』の路線でしたけど、レイがあんな感じになったのは1970年代からじゃないですか。1950年代あたりは、まだ落ち着いた静かでリリカルなプレイが特色のピアニストだったように思います。

 

そんなところ、この『レイ・ブライアント・トリオ』でもよく発揮されていますよね。たとえばその後のレイの代名詞となったソロ演奏とブルーズという二点で考えてみても、このプレスティジ盤にはソロで2曲目の「エンジェル・アイズ」、ブルーズでは3曲目の「ブルーズ・チェインジズ」があるわけですけど、もうまったく1970年代以後とは雰囲気が違いますよね。

 

マット・デニスの「エンジェル・アイズ」でのレイはとことんリリカルに、といってもこの曲はロマンティックな恋愛がテーマじゃなくて残酷な失恋を扱ったものなんですけど、レイはきれいにきれいにメロディをつづっています。静かで落ち着いた抒情的な雰囲気。右手と左手のバランスがいいのもこのピアニストの特徴です。それでもってこの暗い曲を残酷すぎないように、もともとメロディは美しい曲ですから、それを活かすようにていねいに弾いていますよね。

 

こういったリリカルさ、決してゴリゴリやらない、ちょっと線の細いやわらかいムード、というのが1950年代のレイ最大の特色で、このアルバムの代名詞になった1曲目「ゴールデン・イアリングズ」なんかがその結晶ともいえる傑作です。このレイのヴァージョンがこの曲の代表的名演となりましたし、この曲をとりあげたことじたい、この当時のレイのリリカルな志向性をよく反映したものだと言えましょう。

 

3曲目の自作「ブルーズ・チェインジズ」。1955年のマイルズ ・デイヴィス&ミルト・ジャクスンとのセッションでも演奏された曲ですけど(『マイルズ・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』)、定型12小節ブルーズでありながら、ブルージーさ、ファンキーさがまったくない、ムーディなバラードのような曲想を持つ一曲ですよね。

 

ここで聴けるトリオ・ヴァージョンでも、まず無伴奏ソロから出て、リズム・セクションが入ってきても、最後までレイはとことんリリカル。だからちょっと聴き、ブルーズ・ナンバーであることに気がつかないほどです。1970年代以後のソロ・ピアノ演奏ではあんなふうにブルーズを弾いたのに…、と思うと、まるで別人のようですよね。

 

LPではA面ラストだった4曲目「スプリッティン」だけがハードにスウィングするグルーヴ・ナンバーで、レイもどんどん弾きまくりますけど、決してファンキーになったりはしません。5曲目以後アルバムを最後まで聴いても、こういったハード・グルーヴァーはこの一曲だけで、モダン・ジャズ・アルバムとしてはややめずらしい部類に入るのかも。おだやかな曲ばかりで。

 

そう、おだやかさ。これこそが1950年代の、『レイ・ブライアント・トリオ』の、最大の特色で、決して激しく攻めない、エモーショナルにもファンキーにもならないっていうのが、5曲目以後でもよくわかると思います。B面でいちばんの聴きものはトップに来ていたモダン・ジャズ・カルテットの「ジャンゴ」でしょうね。一定の枠から決してはみ出ないMJQの曲は、この当時のレイの資質によく合致していたと言えます。

 

その後の三つも知られた曲ばかりですが、リリカルでおだやかにはみ出ないで弾く、というレイのこの当時の持ち味を存分に発揮した演奏。曲じたいの魅力と演奏の質では、A面よりやや落ちるかもなというのが個人的な感想です。

 

(written 2020.8.21)

 

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