ファンキーになりたてのボビー・ハッチャースン 〜『サン・フランシスコ』
(5 min read)
Bobby Hutcherson - San Francisco
https://open.spotify.com/album/4iWJYzYbD0S6e3I8Xzr7LR?si=I0kXZnkDR8OQIU5WNCru-g
きのうに引き続きブルー・ノート公式プレイリスト『ブルー・グルーヴ』で発見したカッコいいものシリーズ、二日目のきょうはヴァイブラフォン奏者ボビー・ハッチャースンのアルバム『サン・フランシスコ』(1970年録音71年発売)です。これもグルーヴィでいいんですよねえ。
でもきのう書いたブルー・ミッチェルの『バントゥー・ヴィレッジ』ほどのジャズ・ファンク傾倒ぶりではなくて、従来的なメインストリーム・ジャズもかなり残してはいるこの『サン・フランシスコ』、アルバムの全六曲はおおまかに三種類にわけられます。クラブ受けしそうでDJに重宝されそうなグルーヴ・チューン(1、4)、ラテン・ジャズ(3、6)、新主流派ジャズ(2、5)ですね。
それにしても、それらのなかに「サン・フランシスコ」というタイトルの曲があるわけじゃないし、どうしてこのアルバム題なんでしょうか。アメリカ西海岸という意味ではボビー・ハッチャースンはまさにそこの人間ですけど、出身も当時住んでいたのもロス・アンジェルスなんですよね。あるいは1970年前後、若者文化の中心地だったという象徴的な意味合いのことばとしてサン・フランシスコを選んだんでしょうか。
ところでこのアルバム、ピアノとエレピでジョー・サンプルが参加していますけど、かなり重要な役割を担っているように思えます。クルセイダーズ結成直前といった時期で、このアルバムのために曲も二つ書き、お聴きになればわかるように鍵盤楽器でバンド・サウンドの軸になっていますよね。たぶんこれ、アレンジとか全体の方向性もかなりジョーが指示したんじゃないかといった特徴が聴きとれるように思います。
また、このアルバムはハロルド・ランドとの双頭リーダー作としてもいいくらいなんですが、ハロルドはテナー・サックスだけでなくフルートやオーボエも吹き、曲も一個提供しています。ぼくのなかでハロルドはマックス・ローチ&クリフォード・ブラウン・クインテットのサックス奏者という印象が長年強かったので、ときおりこうしたジャズ・ファンク・セッションに顔を出しているのが、二、三年前までは意外でした。
さて1曲目「ゴーイン・ダウン・サウス」。ジョーの曲ですが、これがグルーヴィでカッコいいですよねえ。ボビーがマリンバを叩くこの曲でファンキーなフェンダー・ベースを弾くのはジョン・ウィリアムズ。彼のベース・ラインは、同じくグルーヴ・チューンである4曲目「アム」でも目立っていて、演奏のノリをかなり支配しています。特に「アム」のベース・ラインなんか、格好のサンプリング・ネタになっていそうですよ。
それはそうとその「アム」、冒頭からぐちゅぐちゅと、エフェクターをかませたエレキ・ギターだとしか思えないサウンドがずっと聴こえるんですが、ギターリストが参加しているという情報はないので(それにしては酷似)、たぶんこれはジョー・サンプルのエレピなんでしょうね。その音を歪ませてあるんでしょう。気持ちいいですよねえ。
これら「ゴーイン・ダウン・サウス」「アム」の二曲がこのアルバムでは突出してすばらしく、実際、プレイリスト『ブルー・グルーヴ』に二つとも選ばれています。後年の、1990年代以後の、レア・グルーヴ・ムーヴメントで再評価されDJたちに使われるようになったのも、これら二曲でしょう。それにしてもクラブDJって、いったいどんだけのレコードを聴いているんでしょうねえ。
アルバムではこれら以外のものはわりとストレートめなジャズ・ナンバーかなと思えるんですが、それでも、ラテンな3曲目「ジャズ」と6「ア・ナイト・イン・バルセロナ」(「チュニジアの夜」のもじり?ハロルド・ランド作)はかなりおもしろく、ラテン・ジャズ好きなら血が踊ります。そういうのに向いているミッキー・ローカーのドラミングもみごとで、各人のソロもいいです。特にジョー・サンプルのピアノが聴きものですね。
(written 2020.8.30)
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