英語による自作のラテン・ジャズ・ヴォーカルがいい 〜 エバ・コルテス
(5 min read)
Eva Cortés / Todas Las Voces
https://open.spotify.com/album/7IMCnusXQEtCVuELxrg36l?si=jz98oVUbThG6j3g6dyRQXQ
エバ・コルテス(Eva Cortés)はホンジュラス生まれスペイン育ちの歌手。現在はアメリカ合衆国のニュー・ヨークで活動しているみたいです。その2020年作『Todas Las Voces』は、ジャケットを(パソコンで)一瞥して魅力を感じ、それで聴いてみたら正解でした。
アルバムにはスペイン語題の曲と英語題の曲がまじって収録され、実際中身もスペイン語/英語で歌い分けていますが、たぶんこれ、英語曲はシンガー・ソングライターでもあるエバの自作ナンバーで、スペイン語曲はラテン名曲のカヴァーだということでしょう。
アルバム・プロデューサーはダグ・ビーヴァーズ。現在のNYラテン界における重要人物のひとりですね。参加ミュージシャンも豪華で、ダグのトロンボーンのほか、エリオ・ヴィジャフランカ(ピアノ)、ロマン・フィリウ(サックス)、クリスチャン・マクブライド(ベース)、ルケス・カーティス(ベース、1&4曲目)、ルイシート・キンテーロ(パーカッション)、エリック・ハーランド(ドラムス)といった面々。
それで、曲数からいっても内容からしても、エバ自作の英語曲のほうがこのアルバムでは聴きどころだという気がするんですね。それらはさながらラテン・ジャズ・ヴォーカル作品といった趣で、手練れのミュージシャンたちのこなれた演奏に乗って、(あたかもヴォーカリーズのような)アブストラクトな器楽的ジャジー・ラインをエバが歌いこなしています。
アルバムに四つあるラテン名曲はたしかに美しいメロディを持っているし、エバの歌唱もバンドの演奏もみごとなんですけど、ぼくにはエバ自作の英語曲でのジャジーな味わいのほうがピンときたというわけなんです。特にキモになっているのはクリスチャン・マクブライドのベースとエリオ・ヴィジャフランカのピアノでしょうか。とくにエリオのピアノがリフを演奏したりオブリガートで装飾したりするときに、えもいわれぬ快感があります。クリスチャンのベースはジャズ要素を代表。二本のホーン陣はラテンな味付けをくわえる伴奏役に徹していることが多いです。
全体的によく練られた演唱だなという印象で、アレンジはダグ・ビーヴァーズがやったのかなという気がしますが、演奏の中心役はエリオですね。あるいはエリオがアレンジしたんじゃないかと思えるフシがあるというか、そういう演奏ぶりです。5曲目「レターズ・アンド・ピクチャー・フレイムズ」で冒頭の二管ハーモニーが聴こえてきたら心地いいし、その後のリズム・セクションのキューバン・スタイルに乗ってエバがジャジーに歌うのもいい感じ。ここでもクリスチャンのベース・ソロがあり(アルバム中多し)。
6曲目「バード・オン・ア・ストリング」なんかでは、エバがまるで(ラテンふうにやるときの)サラ・ヴォーンみたいですし、ドラムスのエリック・ハーランドもリム・ショットを混ぜ込みながらの効いた演奏ですね。やはりエリオのピアノが目立っています。7「アウト・オヴ・ワーズ」ではアブストラクトなジャジー・ラインを歌っていますが、一方ちょっぴりロック調の9「レット・ミー・ビリーヴ」は聴きやすくメロディアス。二管ホーン・リフのメロディがいいですね。ほんとアレンジャーだれ?
個人的白眉はアルバム・ラスト10曲目の「ピース」。これもエバの自作でしょうけど、ジャジーな要素を排し、完璧なキューバン・ボレーロにアレンジしてあるんですね。伴奏楽器もドラムスとホーン陣は抜き、ピアノ+ベース+ボンゴだけっていう、ラテン・ミュージックそのまんまですよね。こんな8ビートのボレーロ・リズムが大好きなぼくには好物です。ここではクリスチャンがお得意のアルコ弾きで美しいソロを聴かせてくれているのも好感度高し。
(written 2020.9.19)
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