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2020/11/08

90年代のファット・ポッサムみたいに 〜 シーシック・スティーヴのストレート・ブルーズ

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(8 min read)

 

Seasick Steve / Love & Peace

https://open.spotify.com/album/6Lvdyve5cjekLpTG1wcriF?si=l6hZ-qFXQuKbJhK-DNXBPA

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2020/08/05/love-and-peace-seasick-steve/

 

知らなかったひとですけど、ギター&ヴォーカルのシーシック・スティーヴというアメリカ人ミュージシャン。いまはノルウェイ人パートナーの希望でオスロを拠点にしているそうですが、そのスティーヴの新作アルバム『ラヴ&ピース』(2020)って、えっ、ちょっと待ってくださいよ、いまは1969年なんでしたっけ?

 

そう、いかにも1960年代末っていうか、なんでもこの新作、2インチのアナログ・テープを使って制作されたそうで、だからアナログ24チャンネル録音かもしれず、そこからハーフ・インチのアナログにトラック・ダウンされ、ラッカー盤にカッティングされたんだそう(この段、健太さん情報丸写し)。

 

いやあ、いまどきねえ。でも中身の音楽を聴けば、そんなヴィンテージな手法にこだわったのも納得できようっていうようなグッド・オールド・ブルーズ感満載なんですよね。歌詞のことはあまり聴いていないんですけど、このサウンドですよ。

 

古くさいっていうかレトロっていうか、視点を変えればこういったストレートな米南部スタイルのブルーズって、いつになっても、21世紀でも、不変の魅力とパワーを持っているということですよね。このシーシック・スティーヴの新作アルバム、ちょっぴりブルーズ・ロックっぽいところもありましょうが、全体的にはアメリカ深南部ミシシッピ北部の、ヒル・カントリー・ブルーズによく似ているなと感じます。

 

そう、だからR. L. バーンサイドとかジュニア・キンブロウなど、ファット・ポッサム・レーベルが録音・発売したような、あんな感じのミシシッピ北部のブルーズ・ミュージックでこのアルバムは満たされているんじゃないでしょうか。1曲目はなんでもないブルーズ・ロックかなと思うんですが、2曲目「レギュラー・マン」からそんなディープ・サウスの雰囲気全開になります。

 

アルバムのメンバー編成は、基本、スティーヴのギター&ヴォーカルのほか、ギター&ベース、ドラムス、ハーモニカといったもの。曲によってはキーボーディストも参加しているらしいですが、ほとんど聴こえないですね。ギター&ベースを務めているルーサー・ディキンスンは、ご存知ノース・ミシシッピ・オールスターズの一員で、このバンドはR. L. バーンサイドやファット・ポッサムとも縁が深いんですよね。

 

でもだいたいの曲でスティーヴ自身のギター弾き語りがメインのサウンドになっているんで、若き日に南部のブルーズ・ミュージシャンに師事していたというだけありますね。スティーヴ自身がこういった北部ミシシッピのディープ・ブルーズを肌で身につけているということなんでしょう。ヴォーカルはやや軽いけど、特にギター・プレイにそれがはっきり聴きとれます。

 

アルバムのなかには、ゲストが参加しないスティーヴひとりでの弾き語りというものもあり、5曲目「カーニ・デイズ」(ここではリゾネイター・ギター)とラスト12曲目の「マーシー」。そんな演奏でのディープな味わいもまた格別ですね。サイド・メンバーが入る曲もふくめ、かなりシンプルでストレートな音楽で、1990年代のファット・ポッサム・ブルーズ全盛期に戻ったかのような心地がします。

 

最後に、今日のこのシーシック・スティーヴの『ラヴ&ピース』と直接の関係はないかもっていうことをちょっとだけ。1990年代にファット・ポッサムの録音するシンプルだけどディープな北部ミシシッピのピュア・ブルーズがあんなにも売れたのは、もちろんあの時代がCDメディア普及期で、第二次大戦前の弾き語りものなど古いブルーズ音源がどんどんリイシューされまくっていたことと密接な関係がありました。

 

ミシシッピのヒル・カントリーではむかしかながらの、それこそ戦前からあったスタイルのギター弾き語りブルーズが、まるで時代と社会に取り残されたかのようにずっと何十年もそのまま真空パックされて存続していて、現地の黒人コミュニティ内部の音楽だったから、そんなコミュニティが外部からの侵食をあまり受けていなかったからだと思うんですけど、ファット・ポッサムが1990年代に録音するブルーズは、どれもこれも戦前スタイルそのまんまみたいな素朴でストレートで、しかもディープな味わいがありました。

 

時代はちょうどCDメディアで戦前のブルーズ名録音がどんどんリイシューされていたころ。ロバート・ジョンスンのコンプリート録音集CD二枚組がこの世ではじめて発売されたのがちょうど1990年で、これがブルーズとしてはありえないほどの大ヒット商品になったのがたぶん最大のきっかけで、その後各社とも戦前のブルーズ録音をどんどんCDリイシューしていました。それが90年代のブルーズ・マーケット最大の特色でしたよね。出しすぎというほど出ていました。ぼくも山ほど買いましたよ。

 

それとR. L. バーンサイドなど新録ファット・ポッサム・ブルーズの流行が同時期だったのが、ただの偶然とは思えないんですよね。1990年代はロック界でも60年代的なクラシック・ロックの再評価・回帰傾向がありましたし、これもCDというメディアの登場で過去のロック名盤なんかがどんどんリイシューされはじめたのと密接な関係があったんだと思います。

 

新しいテクノロジーや新メディアの登場・普及が音楽シーンの質まで変えるというのはいつものことなんでしょう。19世紀末〜20世紀初頭のSPレコード登場、1950年代初期のLPメディアの登場も音楽のありようを大きく変えました。さあ、いま2020年代は配信中心、ストリーミング全盛時代なわけですが、そんな変化が音楽の姿まで変えてしまうでしょうか。ぼくはちょっとその傾向が出はじめているように思うんですよ。

 

(written 2020.9.5)

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