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2020/11/15

スワンプ・ロックの先駆けだった1967年のボビー・ジェントリー

Odetobillyjoe

(7 min read)

 

Bobbie Gentry / Ode to Billie Joe

https://open.spotify.com/album/05I1EsreLq47JU8pypj7TR?si=aUJ0TkKlR7C5wvvbbi9Jzg

 

アメリカ人シンガー・ソングライター、ボビー・ジェントリー(Bobbie Gentry)。今年『ザ・デルタ・スウィーティー』(1968)のデラックス・エディションが発売されましたので、再注目を集めているかもしれません。Spotifyでも聴けます。あるきっかけがあって、そのちょっと前から総合的に再評価の機運も。

 

そんなこともあってボビーのことを思い出しましたので、でもぼくが『ザ・デルタ・スウィーティー』よりもどれよりもずっと好きなのは一作目の『オード・トゥ・ビリー・ジョー』(1967)ですから、それをちょっと聴きなおして感想を書いておくことにしました。

 

それで、1967年というとサイケ全盛で、まだスワンプ・ロックとかルーツ・ロックが時代の潮流になっていなかったころだと思いますが、ボビーのアルバム『オード・トゥ・ビリー・ジョー』は完璧なるスワンプ・ロック/ポップだと呼んでいいと思うんですね。数年時代に先んじていたわけですよ。ボビー自身ミシシッピ出身で、南部音楽をベースにしていますから、そんなことで自然と南部的なスワンピーさを身につけていたのかもしれません。

 

『オード・トゥ・ビリー・ジョー』で聴くかぎりでは、ボビーはそんなにたくさんのパターンを持っているわけではなく、っていうかはっきりいうとワン・パターン。自身で弾くナイロン弦アクースティック・ギターでの、ズン、チャッチャ、ズチャ!のリズムしか土台となる型がないんですね。いい感じの曲はどれもぜんぶこのパターン。

 

1曲目「ミシシッピ・デルタ」、3「チカソー・カウンティー・チャイルド」、4「サンデイ・ベスト」、5「ニッキー・ホウケイ」、7「バグズ」、9「レイジー・ウィリー」、10「オード・トゥ・ビリー・ジョー」と、な〜んだほぼぜんぶの曲がそうじゃないですか、このアルバム。

 

なかでもアルバム・ラストの「オード・トゥ・ビリー・ジョー」のシングルが大ヒットしてボビー・ジェントリーの代名詞になりましたけど、それには理由がありました。アルバムより先に発売されていたシングルでは、当初A面が「ミシシッピ・デルタ」(アルバムでは1曲目)になる予定だったんですけど、全米のラジオDJがみんなB面予定だった「オード・トゥ・ビリー・ジョー」ばかりくりかえしどんどんかけたんですね。それで発売時にはAB面の予定はひっくりかえり、「オード・トゥ・ビリー・ジョー」がA面になりました。

 

おかげで全米のチャートで一位になっちゃいましたけど、この曲ばかりラジオでリピートされたのは、間違いなく歌詞のおかげでしょう。曲調なんかはシンプルだし、ナイロン弦ギターの(例のパターンの)カッティングだけが伴奏と言ってよく、アレンジされたストリングスがちょっとだけ入っていますけど、それだけでしょう。サウンド面でのおもしろみは薄いかなと思います。もっぱら歌詞ですよね、注目されたのは。

 

タラハッチ橋から飛び降りて自殺したビリー・ジョー・マカリスターの悲劇についての歌なんですが、歌詞でそのことは話のついでに触れられる程度の他人事として扱われているんですね。衝撃的な事件に対するコミュニティの沈黙こそが曲のテーマで、家族のなかにすら存在するひとのつながりの希薄さ、孤独さが容赦なくあらわになっています。

 

(この曲で)「重要なことは、他人に起きていることを人はそれほど気にかけないということなんです」とボビー本人はのちに語っていて、そんな歌を1967年に自身で書いて歌いレコードになったことが、たぶんアメリカのラジオDJたちにはショックで、だから音楽的にはるかに魅力的な「ミシシッピ・デルタ」じゃなく「オード・トゥ・ビリー・ジョー」ばかりかけたんだと思うんですね。オーディエンスにとってもそうで、だからヒットしたんでしょう。

 

そう、だから音楽的にはアルバムだと1曲目のブルーズ・ナンバー「ミシシッピ・デルタ」のほうが、比較にならないほど魅力的でカッコイイですよねえ。ぼくはこのアルバム・オープニングがもう大好きで大好きで。ファンキーでソウルフルなノリとサウンドを持っているし、1967年時点での最新ブラック・ミュージックふうでありかつ、アメリカン・ルーツ志向(アメリカーナ)的でもあります。でも曲はポップなロック・ナンバーなんですよ。

 

そう、黒人音楽的なものと白人音楽的なもの、両者のルーツ・ミュージックが分ちがたく渾然一体と溶け合って最新型になっているっていうのが、1960年代末ごろ〜70年代初期のスワンプ・ロックなどああいったたぐいの音楽の最大の特色で、ジョー・コッカーやマーク・ベノ、またザ・バンドにしろボブ・ディランにしろ、エリック・クラプトンでもローリング・ストーンズでも、みんなああいったサウンドに取り組んでいましたよね。ビートルズですらやろうとしたんですから(ゲット・バック・セッション)。

 

ああいったムーヴメントの源流にして中核にいたのは米ロス・アンジェルスに拠点を置くリオン・ラッセルらのタルサ〜LAスワンプ勢でしたけど、そんな流れとは無関係だった、年代的にも先んじていたボビー・ジェントリーが1967年にすでにこういった「ミシシッピ・デルタ」みたいな曲を実現させていたわけですねえ。いまふりかえって考えたらすごいことですよ。だれひとりとしてボビーをLAスワンプの流れの先駆者として位置付けたりしませんけどね。

 

なお、曲「ミシシッピ・デルタ」で、冒頭「エム・アイ・ダブル・エス・アイ・ダブル・エス・アイ・ダブル・ピー・アイ」とくりかえし歌われているのは、最初なんのこっちゃ?!と英語理解力の低いぼくなんかはわかっていませんでしたが、要は “Mississippi” と歌っているだけなんです。そんな歌詞もカッコイイし、大好き!

 

(written 2020.9.10)

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