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2021/01/01

ポスト演歌とはなにか

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(13 min read)

 

演歌がヒットチャートに入らなくなって久しいですね。ちょうど21世紀に入って10年ほど経過したあたりからかもっと前からか、CDが売れなくなって、みんながパソコンやスマホを使ってネットでダウンロードしたりストリーミングで音楽を楽しむようになった時代と、演歌が聴かれなくなった時代はほぼ合致しているようにみえます。

 

そんな、演歌が廃れた演歌後の時代、すなわちポスト演歌の時代にあって、あたらしい、いままでにないフレッシュな歌いかたをする新世代の新感覚演歌歌手がどんどん出てきているようにみえるのはなかなか興味深いところです。生き残りをかけて、というか新時代に則して、演歌の姿も変わりつつある、アップデートされつつあるということでしょう。

 

そんな新時代、いわばポスト演歌時代の演歌歌手といえるひとたちのことを、最近考えるようになってきています。全盛期だった1970年代からの演歌・歌謡曲ファンのぼくですが、2017年に岩佐美咲に出会って以来、ふたたびそんな世界をディグするようになっているんですね。

 

だからぼくにとっては岩佐美咲こそポスト演歌の時代を代表する最大の存在なんですが、ふとその周囲を見わたすと、同じような、似たような、新感覚歌唱法を実践している演歌歌手が、美咲の先輩でも後輩でも、けっこういるじゃないかということに気がつきました。

 

時代は変わってきているんですね。

 

そういった新時代の、ポスト演歌時代の、新感覚演歌歌手たちに共通する特徴と具体的な歌手の例を、きょうはちょっとあげておきたいなと思ってキーボードを叩いています。

〜〜

まず、ポスト演歌時代の演歌歌手たちに共通する歌唱法の特徴は、ぼくの聴くところ、以下の10個。

 

1)(演歌のステレオタイプたる)おおげさで誇張された劇的な発声をしない。

 

2)だから、泣き節、シナづくりといった旧態依然たるグリグリ演歌歌唱法は廃している。

 

3)フレイジングも、持ってまわったようなわざとらしいタメ、コブシまわし、強く大きいヴィブラートを使わない。

 

4)濃厚な激しい感情表現をしない、エモーションを殺す。

 

5)力まない、揺らさない、ドスを利かせない。

 

6)端的に言って「ヘンな」声を出さない。

 

7)代わりに、ナチュラル&ストレートでスムースな、スーッとあっさりさっぱりした声の出しかたや歌いかたをする。

 

8)発声も歌唱法も、ヴォーカル・スタイル全体がおだやかで、クールに抑制されている。

 

9)それでも演歌歌手らしい強めのハリとノビのある声は維持している。

 

10)このようなヴォーカル・スタイルで、旧来の演歌が表現していた非日常的な演劇性、物語性を除し、ぼくたちのリアルで素直な生活感覚に根ざしたストレート・フィーリングを具現化している。

〜〜

次いで、ぼくの見つけている範囲でのポスト演歌の歌手を具体的に列挙しておきます。これらはあくまで目立ったほんの氷山の一角であって、若手新感覚演歌歌手はたくさんいます。カッコ内の数字はデビュー曲の発売年。

 

・岩佐美咲(2012〜)

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ポスト演歌の象徴的存在。AKB48出身という、いかにも2010年代以後の日本を代表する演歌歌手ですね。ヴォーカルにわざとらしさや誇張がいっさいなく、ぼくたちのすぐそばにいるような日常感覚をそのまま移植したようなナチュラル&ストレートな自然体歌唱法が最大の持ち味です。

 

美咲は、演歌も歌謡曲もJ-POPも、どれも奇妙にならず同じように歌える資質を持っているのが強みですね。1995年生まれですから完全にいまの時代のポップスを吸収しながら育った世代で、身につけた時代感覚をそのまますっと発揮してくれているような気がします。

 

カンタンに言って、無個性、素直さ、いわば無色透明容器になれるのが美咲。それでもってそのなかに入れる中身=歌そのものの持つ本来的な魅力やパワーをそのままリスナーに伝えてくれる、スムースに歌の世界に感情移入させてくれる、そんな歌手です。

 

美咲はそんなスタイルを学習や訓練によって身につけたのではなく、そもそもの最初から生得的・本能的に持ちあわせていたあたりも、新世代の新感覚演歌歌手らしいところでしょう。

 

どんな旧いタイプの演歌楽曲を歌っても決して「クサく」ならないのが美咲。ここだけは(たとえ新世代であっても)だれもついてこられないところです。シングル表題曲はすべてSpotifyにあり。

 

・坂本冬美(1987〜)

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旧タイプの演歌歌手でしたが、近年、ポスト演歌の時代にあわせてあきらかに変貌しました。

 

注目すべきは2016年から三年連続でリリースされた『ENKA』シリーズ三作。有名演歌スタンダード曲をとりあげながらも、シリーズのメイン・アレンジャー坂本昌之の施した軽くやわらかくクールな(演歌らしくない)伴奏に乗って、冬美も抑制の効いたおだやかでストレートな発声と歌唱法に徹しています。この『ENKA』シリーズは、ポスト演歌の大傑作ですよ。Spotifyにあり。

 

考えてみれば、たとえば1991年に忌野清志郎&細野晴臣とHISを結成したり(冬美と清志郎との交流はつとに有名)、2009年にビリー・バンバンの「また君に恋してる」をカヴァーしたりすることがありました。2020年にも桑田佳祐作の新曲を出しましたよね。

 

「あばれ太鼓」「夜桜お七」といったステレオタイプな演歌イメージでは決してくくれない歌手です。

 

・氷川きよし(2000〜)

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岩佐美咲と坂本冬美の中間あたりの世代で、現在最も派手に活躍しているスター演歌歌手が氷川きよしでしょう。デビュー期こそ「箱根八里の半次郎」「きよしのズンドコ節」といった従来的な演歌楽曲を与えられそれにあわせたイメージの歌唱をみせていましたが、徐々に新世代らしい本来のポップな持ち味を発揮するようになりました。

 

近年は「限界突破×サバイバー」「Papillon」「ボヘミアン・ラプソディ」など、完全に新時代、ポスト演歌の時代の歌に突入した感があります。2020年リリースのポップ・アルバム『Papillon -ボヘミアン・ラプソディ-』は必聴。曲単位でちょっとだけSpotifyにあり。

 

きよしは、スムース&ナチュラルな新感覚ヴォーカル・スタイルを実践しながらも、その歌世界は従来的な非日常性・劇場性を具現化しているのが特徴でもありますね。

 

・丘みどり(2005〜)

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オリジナル楽曲では従来的な演歌世界をみせる歌唱法を残しつつ、そのヴォーカルはイージー&スムースな持ち味を発揮しています。フレーズ末尾やコーラス終わりでのヴィブラートも軽い or ほとんどなし、コブシもまったくまわしません。それでいながら声そのものに強さやセクシーさをただよわせることのできる歌手ですね。

 

2018年のアルバム『彩歌〜いろどりうた〜』や19年の『女ごころ〜十人十色』などSpotifyにありますので、ぜひちょっと聴いてみてください。特に前者にある「喝采」(ちあきなおみ)は逸品。

 

・中澤卓也(2017〜)

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まだオリジナル・シングルは五つですが、どれも中澤卓也にしか歌えない世界です。ヴォーカルというかヴォイスがやさしくやわらかいテイストで、ふわりと軽く丸く、ノー・コブシ、ノー・ヴィブラートで歌い、なおかつ声にゆったりとした深みとコクと甘みを持たせることのできる才能は稀有。

 

男性では卓也こそ若手新感覚派演歌歌手の代表でしょう。このまま順調に成長すれば、あと10年くらいで日本歌謡界を代表する存在になっている可能性があります。それくらいぼくは卓也に期待しています。

 

Spotifyにわりとあり。

 

・杜このみ(2013〜)

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民謡界出身ながら(民謡を歌うとき以外は)コブシをまったくまわさない、ヴィブラートもなしの、さっぱりしたロック・シンガーに通じる持ち味の演歌歌手。そんな楽曲を与えられているというのもありますが、このみのヴォーカルがポップでリズミカルなスタイルだから、というのが大きいですね。若いころの美空ひばりにちょっと似ているかも。

 

シングル・コレクションの1と2がSpotifyにあります。「初恋えんか節」なんかすごいですよ。第二集に収録されているテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」や美空ひばりの「真赤な太陽」なんかもかなりいいです。

 

大相撲の高安との結婚、妊娠で、いまちょっと歌手活動を休んでいますが、これだけの才能、復帰してくれることを願っています。

 

・水森かおり(1995〜)

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歌世界も歌唱法も旧世代寄りですけど、ポップスのカヴァーもたくさん歌っていて、そんなときは歌にあわせて新感覚のヴォーカルを聴かせます。旧来的な演歌歌手たちは軽めのポップスを歌うときでも演歌的濃厚さが顔を出すことが多かったのですが、かおりともなればそういうことはありません。

 

曲によりけりですが、持ち歌や旧来的な演歌を歌うときでも、あんがいナチュラル&スムースな声の出しかたをしていますよね。コーラス終わりでもノン・ヴィブラートですっと声を伸ばしています。

 

歌唱力でいえば、坂本冬美とならび当代ナンバー・ワンかも。

 

Spotifyで一曲も聴けないのはなぜ?

 

・純烈(2010〜)

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ヴォーカル・コーラス・グループで、演歌というよりムード歌謡ですけど、演歌的なレパートリーもポップスも同じようにスムースにこなせる腕前は、岩佐美咲と同系といえるかもしれません。Spotifyで可。

 

・辰巳ゆうと(2018〜)

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まだデビューして三年、オリジナル曲も四つしかないにもかかわらず、次世代を担うかもと目されている存在ですね。演歌と歌謡曲の中間あたりでノリよくナイーヴ&ナチュラルに歌いこなすという持ち味で、ちょっと往年の野口五郎に似たフィーリング。もたらない歯切れいいリズム感のよさは特筆すべきです。シングル表題曲はSpotifyで聴けます。

 

(written 2020.11.17)

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