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2021/01/27

ポップでスムースなルイ・ジョーダン 〜 B.B. キング

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(7 min read)

 

B. B. King / Let the Good Times Roll: The Music of Louis Jordan

https://open.spotify.com/album/4ikYbM2TWojqVQzmBeQ31u?si=cUa_tVx_QTCQ17s8VAKVYw

 

たまたまふらりとSpotifyで偶然に出会ったB.B. キングのアルバム『レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール:ザ・ミュージック・オヴ・ルイ・ジョーダン』(1999)。BBにとってのルイ・ジョーダンはまさに憧れの存在で、最大の音楽的影響源。しばしばルイの曲をBBはやっていましたが、1999年になって本格的にトリビュート・アルバムをつくろうということになったのでしょう。

 

このアルバムでとりあげられているのは、やはりルイ・ジョーダンの書いたオリジナル・ナンバーが多いですけれども、そうでない他作曲もルイがやったものばかり。なんらかの意味でルイと関係のある楽曲をBBはカヴァーしたということですね。全盛期だった1940年代だけでなく、ルイの幅広い時期の録音からピック・アップされています。

 

尊敬するアイドルのルイ・ジョーダン曲集というにしては、このアルバムのBBは力が抜けているというか、ずいぶんリラックスして軽〜くやっているという印象です。ギターのほうはあまり弾かず、主にヴォーカルに専念しているのも特徴の一つ。ピアノとヴォーカルでドクター・ジョン、ドラムスでアール・パーマーといったニュー・オーリンズ勢がゲスト参加していたり、かつてのレイ・チャールズ・バンドのホーン・セクションがくわわっていたりするのも目立ちます。

 

アルバム1曲目の「エイント・ノーバディー・ヒア・バット・アス・チキンズ」から演唱は快調。大好きな曲なんで、1曲目に持ってきてくれてうれしいかぎり。それはそうと “Nobody Here But Us Chickens” という定型句、ルイ・ジョーダンのこの1946年のヒットで世間にひろまって定着したものじゃないですかね。表現じたいはもっと前からあったみたいですけど。

 

どの曲もそうなんですけど、BBはルイのジャイヴィ・ジャンプ・ミュージックの濃い味をかなり中和して、そのエグミとかコクみたいなものは薄め、もっとグッと聴きやすいポップ・ミュージックに仕立て上げているなというのが最大の印象です。だから、リスナーによってはこのアルバム、ちょっと物足りないと感じるんじゃないでしょうか。スムース・ブルーズとでもいったらいいか、そんなできあがりですよね。

 

ルイ・ジョーダンは1940年代における最大のヒット・メイカーでありながら、同時にかなり味の強い素っ頓狂な滑稽味みたいなものもあわせ持っていたんで、だからそれがあんなに大ヒットし続けたというのが意外に感じるほどですけど、ロック〜ファンク〜ヒップ・ホップも通過した1999年だったらそのままの濃いエグミを出したままでも通用したんじゃないかと思うんですけどね。

 

でもBBはそうせず、ぐっとアク抜きをしてイージーでスムースで聴きやすいルイ・ジョーダンに変貌させているのは、それが晩年のふだんからのBBの持ち味だったから、ということでしょう。経験と年輪を重ねて丸くなったといいますか、ギター・サウンドもヴォーカルも洗練されたフィーリングになりましたよね。そんなところ、このルイ・ジョーダン集にも表れているなと思います。

 

13曲目の「カルドニア」にしたって、ルイのオリジナルでは「きゃるど〜っにゃ!きゃるど〜っにゃ!」とスットンキョウな叫び声をあげるのが楽しかったのに、ここで聴けるBBヴァージョンではすんなりなめらかに歌うだけで、これじゃあつまんないなあ、ルイの持っていた若者感覚に根差したジャイヴィな味が消えちゃているよ、とか感じないでもなく。

 

そんなスムースなBBに比して、このアルバムで目立っているのは実はドクター・ジョンの活躍ぶりですね。2曲目ではヴォーカルもデュオで披露しているくらいですが、ほかの曲でのピアノ演奏ぶりも闊達。コロコロと鈴のように転がるニュー・オーリンズ・スタイル全開で、BBの歌だけ聴いていても自然と耳にとまってくる、ハッとする、そんなピアノをドクター・ジョンは弾いています。

 

やっぱり主役はBBですけど、脇役ながらメイン級の活躍をドクター・ジョンは聴かせてくれているなと、このピアニストの大ファンであるぼくなんかはうれしいところです。たとえば8曲目の「アーリー・イン・ザ・モーニング」。ルイ・ジョーダンのやったヴァージョンからしてかなりカリブ/ラテン風味が強かったものですが、BBはそれをやっぱりかなり薄めて、それでもちょっぴりラテン微香ただよわせるといった内容にしています。

 

ところがドクター・ジョンのピアノだけは完璧ニュー・オーリンズ・スタイルのシンコペイティッド・スタイルで弾いていて、この曲のカリビアン・テイストを強化する最大要因になっているんですね。思えばルイ・ジョーダンはキャリア初期から最後までカリブ音楽香味を得意としたひとでした。図らずもこのBBヴァージョンではドクター・ジョンがそれを受け継いでくれていますよね。さすがはニュー・オーリンズ人。

 

あれっ、BBの話なのかドクター・ジョンの話かわからなくなりましたが、アルバム全体はやっぱりポップでスムースで聴きやすく、悪く言えばまったく食い足りないルイ・ジョーダン集。ときどきBGMとしてイージーに流すにはグッド、といった程度のものかもしれません。ルイの書いた曲は楽しいし大好きだから、あっさり味でもじゅうぶん聴けるっていう、そういったものですかね。

 

(written 2020.10.31)

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