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2021/01/05

ダイアナ・クラールの新作は心落ち着ける

Dianakrallthisdreamofyou

(6 min read)

 

Diana Krall / This Dream of You

https://open.spotify.com/album/2axVAnC2sE98xigU2BV1TY?si=mnHOSs7UTRqSUB1Lo8u5Sg

 

ジャズ歌手のDiana Krall。ところでこの名前をカナ書きすると、ダイアナ・クラールというよりはクロールに近くなるんじゃないかと前からぼくは思っているんですけれども、この歌手&ピアニストに特にどうという気持ちもないぼくは、長いものに巻かれとけ的発想で今日もクラールと書きます。

 

そんなダイアナ・クラール(クロール)の2020年最新作『ディス・ドリーム・オヴ・ユー』にはちょっとした背景があるんだそう。ダイアナは名匠トミー・リプーマに見出されてブレイクしたわけで、その後もリプーマがダイアナをプロデュースしたアルバムがたくさんあります。

 

そんなリプーマも2017年に亡くなってしまったでしょう、ダイアナとしては大きなショックだったみたいですよね。それで三年の時間を経てようやく世に出ることになったリプーマ追悼集が今作の『ディス・ドリーム・オヴ・ユー』なんだってことらしいです。

 

ダイアナとリプーマの最後のコラボは2017年の『ターン・アップ・ザ・クワイエット』(リリース直前にリプーマが亡くなる)だったわけですが、そのころ2016〜17年あたりにリプーマとともに録りだめてあった音源を蔵出ししつつ今回手を加えて完成させ、新録音も交え、できあがったアメリカン・スタンダード・カヴァー集が『ディス・ドリーム・オヴ・ユー』なんですね。

 

リプーマ追悼集という意味も帯びているせいでしょう、アルバム全体で静謐感が強くただようというか、やや重たい感触もありますね。そのへん、約50分間のこの作品全体を通して聴くとちょっと退屈だという印象を抱いてしまうばあいもあるんじゃないかと思います。

 

しかしなかなか雰囲気がいいし、おだやかで静かで、夜ひとりで心を落ち着けたいときなんかに聴くにはもってこいのアルバムじゃないでしょうか。そんななかでもオッと耳をひくものが数曲あります。まず6曲目「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」。全体的におだやかな調子で貫かれているこのアルバムのなかでは例外的にスウィンギーにドライヴするワン・トラックなんですね。

 

ヴァイオリンのソロとオブリも効いているし、こりゃなかなかみごとな演奏と歌ですよ。ところでこの「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」はナット・キング・コールもやりました。かの有名な戦後作『アフター・ミッドナイト』のオープナーでしたね。ナットのレパートリーをダイアナがとりあげるのは、やっぱりダイアナらしいなと思うんですね。

 

アメリカン・スタンダード・ポップスをたくさん歌ったナット・キング・コール。その道の第一人者といっていい存在だったわけですが、ダイアナ・クラールの世界ってちょっとそんなナットの世界を引き継いでいる部分があるなと前からぼくは感じているんですよね。ダイアナはナット曲集のアルバムも出しましたがそれだけのことじゃなく、ダイアナの世界観はナットの表現していたそれじゃないかと。

 

そう考えると、今作『ディス・ドリーム・オヴ・ユー』でもピアノ+ギター+ベース+ドラムスといった必要最低限のコンボで基本やっているし、そんな面でもナット・キング・コール・トリオを意識したのかなと思わないでもありません。ダイアナの今作のばあいは、それにちょこっとヴァイオリンが入ったり、ストリング・アンサンブルが伴奏をつけたりしますけどね。

 

10曲目「アイ・ウィッシュト・オン・ザ・ムーン」。ビリー・ホリデイが1935年に歌って知られるようになったポップ・ソングで、そのヴァージョンが至高のものであるわけですが、ここでのダイアナはちょっとテンポを上げ、これも快活な雰囲気と曲調にアレンジしなおしてあるのがいいですね。出だしのリフがこれまたナット・キング・コール・トリオのスタイルをそのまんま踏襲。

 

アルバム題になっている9曲目「ディス・ドリーム・オヴ・ユー」だけが新しい曲で、これはボブ・ディランが2009年の『トゥゲザー・スルー・ライフ』で歌ったボブ自作のテックス・メックス・ソング。そりゃあもう完璧なラテン・チューンだったものです。
https://open.spotify.com/track/5WsZ3nNApCUv3IoOtAA3kv?si=BgXwYMwGRAua5A5aG6R6cA

 

アバネーラ調のリズム・フィールも感じられるこのディランの曲を、今回ダイアナはもっとぐっと落ち着いたジャジーなヴァージョンに仕立て上げているその手腕が光ります。これは新録ですからトミー・リプーマはかかわっておらず、ダイアナ自身のプロデュースです。かすかにアバネーラ/テックス・メックスふうのラテン・フィールが香っているようにも聴こえ、なかなか極上のヴァージョンになったのではないでしょうか。いわばジャジー・テックス・メックス。

 

(written 2020.10.19)

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