ジャズ・ボッサとジャズ・ロックの60年代 〜 ボビー・ハッチャースン
(5 min read)
Bobby Hutcherson / Oblique
https://open.spotify.com/album/7pTAH0ua0JF7uYvT613Pc4?si=9WzVnsfTQLyPaYnpJ1s45A
ボビー・ハッチャースンの『オブリーク』は1967年7月21日のワン・セッションで収録を終えていたにもかかわらず、ブルー・ノートから発売されたのは80年になってから。こういうの、多いですね、この会社。上に出したのはそのときのオリジナル・ジャケットじゃないですが、いまやこっちで流通しているでしょう。
このアルバムもボスのヴァイブラフォン以下、ハービー・ハンコックのピアノ、アルバート・スティンソンのベース、ジョー・チェインバーズのドラムスという編成。音楽的にはポスト・バップ(新主流派)と言っていいんでしょう。
注目したいのはジャズ・ボッサ・ナンバーが数曲あること。1「ティル・ゼン」と4「サトル・ネプチューン」は鮮明で、2「マイ・ジョイ」(いずれもボビー作)もちょっぴりそうかも。1967年の録音ですから、ボサ・ノーヴァのリズムを応用したジャズはアメリカ合衆国でも一般的だったはず。
ヴァイブラフォンの乾いて硬質でクールな音色もこれらジャズ・ボッサ・ナンバーによく似合っていて、なかなかいいムードだなと思うんですが、このアルバムでぼくが最も興味があるのは3曲目「シーム・フロム・”ブロウ・アップ”」との関係です。ハービーが書いたこの3曲目は8ビートのジャズ・ロック・ナンバーなんですよね。
一つのアルバムのなかにジャズ・ボッサとジャズ・ロックが混在していて、しかも通して聴いた感じなんの違和感もなくスムースに溶けあって流れてくるんですよね。なかなか興味深いっていうか、1960年代のアメリカのジャズ界ならではだなって思います。ジャズ・ボッサとジャズ・ロックの流行ってほぼだいたい同じころでしたし。
ジャズ・ボッサは簡単にいえばジャズ・ミュージシャンがやるインストルメンタルなボサ・ノーヴァのことだと定義していいんじゃないかと思うんですけど、アメリカ合衆国のジャズ界におけるボサ・ノーヴァ・ブームって、いつごろからだったんでしょうね。かの『ゲッツ/ジルベルト』が1964年にリリースされていますから、そのちょっと前から?あっ、ゲッツがチャーリー・バードとやった『ジャズ・サンバ』が62年ですか、じゃあこのあたりからでしょう。
おもしろいのはアメリカのジャズ界におけるジャズ・ロック・ムーヴメントもちょうど同じころにはじまったという事実です。ハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」が1962年、リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」が63年で、その直後あたりからジャズ・ロック・チューンがどんどん出はじめるようになりました。
つまり1960年代アメリカン・ジャズにおけるジャズ・ボッサ・クレイズとジャズ・ロック・クレイズは完璧に同時期だったわけですよね。音楽的にだって関係ないわけじゃないっていうか、メインストリームな4/4拍子の保守的なジャズ・ビートに飽きたミュージシャンやファンが、時代の先端音楽とのちょっとしたフュージョンを求めるようになっていたんだろうと思うんですね。
ボビー・ハッチャースンの『オブリーク』は1967年の録音ですから、そんなムーヴメントもすでに完全に定着していたころで、60年代のボサ・ノーヴァやロックとの接合をきっかけにジャズも新時代の音楽に生まれ変わろうとしはじめていた、そんな時代のさきっちょにあったアルバムじゃないでしょうか。いかにもシックスティーズを感じさせる作品ですね。アルバム・タイトルになった5曲目(ジョー・チェインバーズ作)はストレート・ジャズで、これはこれで立派な演奏です。
このアルバムの録音の翌年、翌々年ごろから、ジャズ界は電気楽器の大胆な活用に踏み出して、新たな表現領域を獲得していくことになったのです。
(written 2020.12.15)
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