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2021/04/15

私の曲?

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(10 min read)

 

演歌歌手の田川寿美が、2021年4月2日からYouTubeでギター弾き語り動画配信をはじめました。4月12日時点でまだ一個ですが、コロナ禍で対面イベントができないなりに、みなさんそれぞれ工夫して活動していますよねえ(わさみん界隈は?)。

 

その動画で田川がしゃべっていたことがぼくの印象に残りました。デビュー期に歌っていたという美空ひばりナンバーから一曲「ひばりの佐渡情話」を披露したんですけど、その導入部でこう語ったのです。
https://www.youtube.com/watch?v=6isQG8hFWz8

 

田川いわく〜「(デビュー)当時は、あのころ、ひばりさんの歌を歌うとかそれでアルバムを出すだとかいったことは、ひばりプロダクションの許可がないとできなかったことだったんですね」〜。

 

ええぇ〜っ?!と驚きましたよ。田川のデビューは1992年で、ひばりが亡くなってからたしかにまだ三年しか経っていませんでしたけど、ひばりナンバーをカヴァーするのに、その事務所の許諾が必要だったなんて、演歌界ってなんという旧弊体質なのか!とビックリしちゃいました。

 

いちおう説明しておきますと、ひばりは自分で曲を書いたことはなく、歌ったどの曲も、「ひばりの佐渡情話」もどれもこれも、ひばり側に著作権などありません。当然ひばりプロダクションが法的権利を持っているはずもなく。

 

田川はたまたまひばりと同じ日本コロムビア所属ということもあって、話はスムースに進んだみたいですけど、そんなねえ、カヴァーするのにいちいち(権利者ではない)初演歌手所属事務所の許諾が必要だなんて、どこの世界にそんなバカらしい話があるでしょうか。

 

でもさすがに21世紀の現在では、いくらひばりプロダクションでもこんな理不尽なこと、もう言わなくなっているはずだと信じていますけど、実は次のようなこともありました。

 

2015年のキノコホテル vs カルメン・マキ騒動のことです。キノコホテルっていう(マキからしたら若手の)バンドがマキの「ノイジー・ベイビー」をカヴァーしていたんですけど、キノコホテルの演奏をたまたま見たマキが「あれ?これ、私の曲だ」と。なんの断りもなく自身の曲をカヴァーしている、と思い、憤慨。

 

「人の曲をカバーする時は、歌手にも一言報告するのが常識」と、マキはキノコホテルをTwitterで批難。それに対してキノコホテル側は「著作権者である作詞・作曲者にはちゃんと承諾を取っているのに、メンドくさい」となって「二度とこの曲、やりません」とツイートしたことで、音楽業界関係者やミュージシャンを巻き込んだ議論に発展したという件。

 

「ノイジー・ベイビー」にかんしてもですね、カルメン・マキは著作権者じゃありません。作詞・作曲はクニ河内で、マキはたんに初演歌手というだけです。

 

マキ側に賛意を示す発言もちらほら見られましたが、プロの音楽関係者もふくめ、キノコホテル側になんの問題もないはずという意見があのとき大多数でした。そもそもカヴァーする際に著作権者の許諾を取るのは当然としても、権利者ではないたとえば初演歌手(やその所属事務所)などに「ひとこと入れておくべき、それがスジってもの」というのはたんなる感情論でしかなく、カヴァーしたい若手などにとっては害悪でしかないんですよね。そういう意見がTwitter上では大半でした。

 

カルメン・マキってずいぶんつまらないことを言うんだな、とぼくもあのときバカバカしく思ったもんですけど、今年になってついこないだ、上で書いたように田川寿美がひばりの曲関係のことを言っていたのに出会い、ふ〜ん、じゃあジャンルを問わず日本の音楽業界ってむかしからそんな体質なのかと、それがいまだ変わっていないんだなと、イチイチ初演歌手やその事務所に断りを入れておかないとカヴァーひとつできない業界なのかと、呆れ果てました。

 

たぶん、ずっと前からこうで、いまだに同じなんでしょうねえ。

 

私の曲、とはいったいなんなのか。

 

自分で作詞作曲して登録した、っていうんならわかりますよ。法的権利がありますし、本人死去後はそれを相続した遺族なりの承諾が得られなかったらカヴァーできないでしょう(ってそれもたんなる手続き上のことでしかないので、NGなんてことはない)。

 

でも美空ひばりもカルメン・マキも、著作権者ではないんですよ。たんに初演したというだけのことです。この世ではじめてその曲を歌った人間には、そのことにより後進歌手のカヴァーを抑制する権利でも発生するんですかね?あぁ、バカらしい。

 

それにですね、ひばりのばあいは子どものころ「東京ブギウギ」など服部良一が書いた笠置シヅ子ナンバーを歌っていて、それで笠置側から「歌うな」ととがめられたという経験があったはずです。抜群にリズム感とノリのよかった幼少時のひばりに服部良一のブギウギ・ナンバーはピッタリだったのに。

 

もちろんあのときは、笠置本人がというより、ひばりのカヴァーが話題になっているのを知った周囲の関係者たちがひばり側を注意したということだったかもしれませんけれども、まだ10歳程度だったひばりにとっては同じことです。「私の曲を歌わないで!」と大物先輩歌手に言われてしまったという記憶だけが残ったかもしれませんよね。

 

それなのに、のちのち自分が日本歌謡界に君臨する超大物となってからは、同じことを若手後進歌手に課すだなんて。

 

こういった先輩歌手たちの言っていることって、有り体に言えば「ちょっとアイサツくらいしてこんかいワレ〜!」っていう、つまりヤクザの仁義ということなんですよねえ。

 

いいですか、ティン・パン・アリーの、ブリル・ビルディングの、有名曲がどうして世界でこれだけたくさんカヴァーされ、種々の多様なヴァージョンを生み出し、時代の変遷にあわせて様相をあらたにしながら2021年現在まで生き残ってきているのか、考えたことがありますか。

 

ポール・マッカートニーの書き歌った、(いまはヨーコ・オノが権利を持っている)ジョン・レノンの書き歌った、ビートルズ・ナンバーが、どうして世界中でいまだにこれだけ歌われ演奏されているのか、それであるがゆえに21世紀にも生き残り発展し続けることができているのか、考えたことがありますか。

 

世界中のシンガーやミュージシャンたちが、「初演があなただから」「”あなたの曲” だから」といって、ポールにひとこと報告し許諾を求める手紙でも電話でもメールでも一斉に送りはじめたら、いったいどんなことになるか、想像したことがありますか。

 

初演が私だから、私の曲、だから、っていうんで、カヴァーする際にはひとこと自分にも断りを入れてくれ、なんてのはなんの根拠もない感情論にすぎません。そんなだから日本の音楽業界は衰退の一途をたどっているんですよ。若い、新しい、新世代の歌手や音楽家にカヴァーされることは、初演歌手にとっても誇りであるうれしいことなはずなんですけどねえ。

 

情緒的にっていうか、カヴァーする後進のほうが大物初演歌手にいちおう挨拶だけしておこう、じゃないとなんとなく、って思うことはあるかもしれませんよね。自由にしたらいいと思います。そんなもん言ってこなくていいんだ、どんどん勝手にカヴァーしろ、と返されることになると思いますけど。

 

でも初演歌手のほうから「私に無言でカヴァーするとはなにごとか!」「私の(事務所の)許可を得ていないのか?」などと言いはじめたら、音楽業界の終わりです。美空ひばり(プロダクション)やカルメン・マキみたいなやりかたは、若手を、カヴァーを、業界を、萎縮させる効果しかありませんし、なにより合理的根拠がありません。

 

そうやってその曲はだんだんと歌われなくなり、次第にひとびとの記憶から薄れていき、この世から消えるんですね。だれが初演だったかも、だれひとり憶えていないっていうことになります。

 

歌い継がれていかないと、歌は死ぬんです。

 

(written 2021.4.12)

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