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2021/05/05

アダルト・オリエンティッド・ブラジリアン・ジャズ 〜 渡辺貞夫

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(6 min read)

 

渡辺貞夫 / Naturally

https://open.spotify.com/album/0cHuwRpxsnjwyQgeiAJ75m?si=_cmj6PJPStGbhvkakdDc1w

 

最近の、つまり21世紀に入ったあたりからの渡辺貞夫さんのことはまったくフォローしていなかったからと反省し、いまだ現役だからどんなアルバムがあるのだろう?と思ってSpotifyでざっと聴いてみました。なんだかメインストリーム・ジャズに回帰したみたいなものもわりとあるんですね。

 

しかしそのなかでも2015年の『Naturally』がとってもいいなあ〜って、ジャケットともども心に沁み入りました。もちろんジャズだけどフュージョンに近いっていうか、ブラジル音楽路線なんですよね。実際、リオ・デ・ジャネイロ録音らしく、ジャキス・モレレンバウムらブラジル人ミュージシャンたちを起用して製作されています。

 

ジャキスはチェロを弾くだけでなく貞夫さんと共同でアルバム・プロデューサーもやっています。バンド編成はギター、ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッション(+曲によってストリングス)。貞夫さんはこの二年前の2013年にもブラジル録音でアルバムをつくっているみたい(『Outra Vez』)。

 

全員がアクースティック楽器を演奏し、エレキはいっさいなし。サウンド・プロデュースとしても現代のオーガニックなジャズ作品に仕立てあげようとしたんだなという意図がよくわかります。アメリカ合衆国のポップスでもオーガニック路線は近年の流行で、その一方にコンピューターをフル活用したヒップ・ホップやR&Bがあったりしますが、ジャズ界でもこの二極化は言えることなのかもしれません。

 

ともあれ『ナチュラリー』、聴き心地のいいアクースティックなオーガニック・ブラジリアン・ジャズで、リズムはボサ・ノーヴァが基調になっているばあいが多いと思います。曲はほとんどがたぶん貞夫さんの自作かなあ、ピシンギーニャの「カリニョーゾ」もやっていますけど、これ、貞夫さん好きみたいですね、いままでも頻繁に演奏してきていますからね。

 

しっとり落ち着いたアダルトなムード全開で、決してハードにならず全体的にとても丸く、貞夫さんも若かったころはとんがった激しいブロウも聴かせたと思うんですけど、80歳も超えいい感じに丸く枯れてきたなという印象がこのアルバムを聴くとあります。そこにちょうどいい塩梅のブラジル音楽風味をくわえ、いわばアダルト・オリエンティッド・ブラジリアン・ジャズとでも言ったらいいようなものをつくりあげていますよね。

 

1曲目「ナチュラリー」からそんなフィーリングが横溢しています。明るい曲調のボサ・ノーヴァで、バンドの落ち着いた演奏に乗って貞夫さんがどこまでもしっとりとおだやかに歌っています。これですよ、これ、この雰囲気こそくつろぎのリラックス・タイムを彩る大人の音楽。アド・リブ・ソロもよく歌っているし、文句なしですね。

 

アルト・サックスの音色にも特徴があって、若いころよりも、枯れたぶんかえって湿った色気を増しているように聴こえるのは驚異ですね。貞夫さんのアルトは以前からずっとそうだったのではありますが、このセクシーさ、落ち着き、音色そのものにただよう情緒感など、も〜う、ぼくは完璧に惚れなおしちゃいました。いやあ、すばらしい。

 

そんなところ、切ないバラード調である2曲目「ジュント・コン・ヴォセ」なんかだと、もう哀感の極みに到達しているような感があって、たまりません。ジャキスのチェロがアルトにからみはじめた刹那、もう泣きそう。ブラジル音楽特有のサウダージということなんですけど、それをここまで甘く切なくジャジー&メロウに表現することのできるアルト奏者が現在ほかにいるでしょうか。こんな世界、なかなかないですよ。

 

快活なサンバ調の4曲目「ベン・アゴラ」でも落ち着いたフィーリングでしっとりと吹いていく貞夫さん。バンドはみごとにスウィングしてそれを下支えしています。特にブラシを中心に使うドラマーがいいなあ。リズムも効いていますが、決してハードにならないのがいまの貞夫さんらしいところですね。

 

5曲目の「ウォーター・カラーズ」のメロの出だしなんか、そのまんま「マイ・ディア・ライフ」のそれなので、あれっ?と思っていると、その後独自展開します。ジャキス・アレンジのストリングスも美しいこれはジャズ・バラードですね。6「ナ・ラパ」もボサ・ノーヴァ、ギターとチェロとアルトの三重奏でやっている7「カリニョーゾ」はショーロというよりジャズ・バラードふうです。

 

バンドは激しくビートを刻む8「バーズ・ソング」、哀切バラードの9「スプリング」(これも最高)を経て、アルバム・ラスト10「スマイル」はチャールズ・チャップリンの有名曲。これをピアノとだけのデュオ演奏でじっくり淡々と聴かせるアルト・サックスのサウンドには、人生の年輪を重ねた古老にしか表現しえない説得力がこもっているように思えます。

 

(written 2021.2.3)

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