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2021/06/11

ウィントン・マルサリス『ブラック・コーズ』にまつわる思い出

Blackcodes_300_300_90

(8 min read)

 

Wynton Marsalis / Black Codes (From the Underground)

https://open.spotify.com/album/3yjPy557Rtupp0nxIJ7uZt?si=nLgu4kSVSPaVl97BGwGqVg

 

ウィントン・マルサリスの1985年作『ブラック・コーズ(フロム・ジ・アンダーグラウンド)』。発売された当初、輸入盤ショップで即レコードを買って聴いて、こりゃあすごい!大傑作だ!とぼくは大騒ぎして、周囲のジャズ・リスナーのみんなにも言い回っていました。

 

そう、いまでも鮮明に憶えていますが、あの部屋、博士課程一年目だったあの当時住んでいた東久留米のあの寮の一室で、このレコードを聴きまくっていたのを。もう完璧に夢中で、現代の『カインド・オヴ・ブルー』だ、とまで周囲には言いまくって、そりゃあ興奮して大騒ぎしていたんですよね。

 

ある時期以後そんな気分もすっかり霧散してしまい、そもそもウィントン・マルサリスというジャズ・ミュージシャンそのものについて否定的というか、あんまりおもしろくないひとかもなあという考えを持つようになったんですけどね。だから、発売当時あんなに絶賛した『ブラック・コーズ』のことも、ふりかえらないようになっていました。

 

でもなぜだかこないだちょっと『ブラック・コーズ』のことを思い出すきっかけがあって、20年ぶりくらいに、今度はSpotifyで聴きなおしたんですね。そうしたら、やっぱり大傑作とまでは思わないものの、それでもなかなかにすぐれたアルバムじゃないかという気分がちょっぴりよみがえってきました。

 

このアルバム、1981年のデビュー以来続いていたウィントンのレギュラー・バンド最終作になったものです。ウィントン+ブランフォード・マルサリス(サックス)+ケニー・カークランド(ピアノ)+ジェフ・テイン・ワッツ(ドラムス)。ベースはこのころだけチャーネット・モフェット(かのチャールズ・モフェットの子)。

 

なぜこのバンドの最終作になったかというと、1985年にブランフォードとケニーが抜けてスティングのツアー・バンドに加入したからです。アルバムの録音にも参加していました。それにしてもあのスティングのバンドはすごいメンツでしたよねえ。ベースにダリル・ジョーンズ(マイルズ・デイヴィス)、ドラムスにオマー・ハキム(ウェザー・リポート)。ロック・スターの経済力を思い知りました。

 

ともあれ、解散する前のウィントンのこのバンドにはちょっとした思い出があって、1985年の『ブラック・コーズ』発表後だったかそのすこし前か、同じ五人で来日公演をやったんですよね。そのとき練馬でもライヴをやったので、ぼくはそれを聴きにいきました。当時は西武池袋線沿線に住んでいたので、練馬まで来るんなら行きやすいじゃないかと思って。

 

練馬文化センター(だったはず)のそのホールで開演時間が来て場内が暗くなっても客席はガラガラで、あれってどうしてだったんだろう、ウィントンってそんなに人気ないんだっけ?と不思議に感じたのを憶えています。曲紹介などなしで(いちおうウィントンがリーダー然とふるまっていた)、淡々と次々に演奏していました。

 

憶えているのは、チャーネットのコントラバスの弦の一本が調子悪くなって、ペグ(糸巻き)で巻いても巻いてもだら〜んとゆるんじゃうので(切れた?)、それで修繕のため一回ソデに引っ込んで、バンドの演奏が中断したことです。戻ってくるまでということでウィントンが(苦手そうだった)おしゃべりでつないでいましたが、なかなかチャーネットが復帰しないので、一曲、ベースなしのピアノ伴奏だけでできるバラード調の曲をやりました。

 

Marsalisがマルサリスでもマーサリスでもなく、sa にアクセントがあってその前の Mar は短く弱いので、カナ書きすればマサーリスに近くなるというのを知ったのも、あの日、ウィントンがバンド・メンバー紹介をやったとき自分の名前も発音したからでした。でもなんとなくマサーリスとは書きにくいですよねえ。マルサリスのままでぼくもやっていますけど。

 

演奏はたいへん充実していて、客席がガラガラなことなどまったく関係ないみごとな演奏を聴かせていました。最前列でぼくは聴いたので、ウィントンのトランペットのじかの生音がしっかり聴こえてきたのも収穫でした。きれいでブリリアントな丸いサウンドでしたよ。PAに負けずに聴こえるっていうのは、音量が大きいんでしょうね。

 

そんなこんなの思い出もまとわりついているウィントンのスタジオ・アルバム『ブラック・コーズ』ですが、いま聴きかえすと、ケニーのピアノ演奏ぶりとジェフのドラミングが特に印象に残ります。あと、ウィントンのコンポジションですね、充実しているのは。ウネウネと複雑に入り組んだテーマ・ライン、その背後のリズム・アレンジ、ソロとソロのあいだにはさまるリフとか、とてもよく練られているものですよね。

 

特にアップ・テンポで熱を帯びる曲はバンド全体の熱量が高くて、思わず引き込まれる演奏力だなと感じます。3曲目「デルフィーヨズ・ディレンマ」(デルフィーヨはウィントンの弟の名)、それからなんといっても実質アルバム・ラストと言いたい6曲目「チェインバーズ・オヴ・テイン」が情熱的。曲題どおりジェフ・テイン・ワッツのドラミングの爆発ぶりに耳を奪われます。

 

実質アルバム・ラスト、とわざわざ書いたのは、このあともう一曲、アルバム・コーダみたいにしてワン・トラック、「ブルーズ」がくっついているからです。なんでこんなのがあるのか、当時もいまもちょっと不思議です。曲題どおりなんの変哲もない12小節定型ブルーズ演奏で、バンドはおやすみ、チャーネットのベースだけを伴奏にただウィントンがストレート・ブルーズを吹くというもの。ホント、これ、なんだろう?

 

なお、アルバム題になっている「ブラック・コード」とは、アルバム発売当時ぼくはなにも知りませんでしたが、南北戦争後のアメリカ旧南部連合諸州で制定されていた黒人規制法のこと。黒人を元主人のもとでの労働に縛りつけ、移動や職業選択の自由を奪い、投票権を与えず、法廷での証言や財産の所有権に厳しい制限を課し、また白人との結婚を厳しく禁じるもの。

 

こんな合法的人種差別が撤廃されるのは、1964年の公民権法成立によってようやくだったのです。

 

(written 2021.2.27)

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