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2021/06/18

単数のthey

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(6 min read)

 

もちろんみなさんとっくにご存知でしょう、ジェンダー・フリーな単数のthey。英語辞書で有名なアメリカのミリアム・ウェブスター社がこれを「今年の単語」に認定したのは2019年のこと。そのころにはもうすっかり定着したものだったとみることができますね。

 

ウェブスター英語辞書の最新版では、この単数のtheyは

 

「自分の性別をノンバイナリーと認識している単一の人物」
(used to refer to a single person whose gender identity is nonbinary)

 

と定義されています。

 

ノン・バイナリー、すなわち男性/女性の二分的発想になじまない性自認であればだれでも使うことのできるこのthey。また、たとえば自分は明確に女性(男性)だけれども、男女二元論にもとづかない生きかたをしている、だから私の代名詞はtheyだ、と言うこともできると思います。

 

ぼく個人がこの単数のtheyを知ったのは2017年ごろでしたか、もっと最近か、イングランドのシンガー・ソングライター、サム・スミスが「自分を表す代名詞は they だ」と発言したことによるものだったように記憶しています。

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ちょうどそのあたりから、特にSNS、なかでもInstagramで、自分の代名詞はthey/themであると表明する人物が増えてきて、定着したんじゃないかという気がするんですね。そこから数年で権威ある英語辞書の定義にも載るようになったということで。

 

新用法ではあるんですが、しかし「単数のthey」じたいは実はかなり古くから存在したものです。複数のtheyが登場して約100年後の14世紀には出現例が確認されているものなんですね。先行詞が鮮明でなかったり、あるいは出生時性別判断前の人間を指すときに使ったり、また性別がはっきりしない、特定できない状況などで使われてきました。

 

有名なところではウィリアム・シェイクスピアやルイス・キャロル、ジェイン・オースティンも作品中でこの単数のtheyを使っている文例がありますが、近年は男女平等を推し進めるという観点から、すべての三人称代名詞をhe or sheなどと書くのが煩雑であるというところでtheyひとことで代用する動きも出てきていました。

 

おそらく、この男女平等を意識した性別不問の単数のtheyの用法からさらに一歩進んだものとして、主に21世紀に入ってからLGBTQ、つまり性的マイノリティへの配慮と権利運動のひろがりにより、男性でも女性でもないという性自認を持つ個別のひとについて使われる三人称単数形の代名詞theyがひろまったものと思われます。

 

日本でも履歴書から性別欄をなくそうという動きがひろがっていて、実際、各社の履歴書フォーマットから消えつつあるようで。それはLGBTQへの配慮ということもあるし、また女性とわかっただけで就職で不利な扱いを受けたりなどの性差別をなくそうという意味もあります。

 

he / sheという男女二分法で自分を表すことに心地の悪さを感じてきたLGBTQのひとびとの主張からひろがって、一種の流行語のようになったこの単数のthey。Instagramなどでさまざまなひとたちの投稿を見ていると枚挙にいとまがないというほど個人的には頻繁に目にするようになりました。

 

ウェブスター英語辞典では、一つの文例として

 

This is my friend, Jay. I met them at work.

 

というのを載せています。him(彼)やher(彼女)ではなくthemという男女共通の代名詞theyの目的格を使って話を続けるという方法です。

 

こういう言いかたであれば、自分を男性でも女性でもないと認識しているジェイさんにとっては、性別を勝手に決めつけられることなくジェンダー・ニュートラルなかたちで自分を紹介してもらえますし、その紹介を聞いたかたは、ジェイさんはノン・バイナリーなのだなと察することができるわけです。

 

こうした単数のtheyに続く動詞は、従来どおりare、haveなど複数形を用いるというのが現在のところの一般的な用法です。代名詞は単数なんですけれども動詞は複数形。ここはひょっとしたら将来is、hasなど単数形の動詞があてはめられるようになっていく可能性があるかもしれません。

 

ぼくは学校の英語教師でしたが、このノン・バイナリーな単数のtheyを教室で教えるといった場面に遭遇したことはありませんでした。どんな英語教師も将来的に教科書などに載るようにもなってくれば必然的に教えることになるでしょうけれども、まだ先の話かなあという気がします。

 

ただ、いまは特に学校などで用いるようなたぐいの(典型的な)教材でなくとも、生きた英語に接する機会は、それこそぼくがきょうInstagramなどSNSとくりかえしていますように、いくらでも生活のなかにあふれていますから、学習者がノン・バイナリーな単数のtheyに触れて、自分も使ってみたいと思う可能性はじゅうぶんにあると思います。

 

そのとき、こうした英語の新常識を知らない学校の教師や職場の上司が、生徒や部下が書いた「単数形のthey」を使った英文を間違いとして減点したり書き直してしまったりするようなケースが起こるのではないかという危惧もありますね。

 

今後、英語の学力試験などでこうした「単数形のthey」をどのように取り扱うのか、正解/不正解の明確なスタンダードを決めて周知を図る必要があるのかもしれません。もちろんことばですから、現実に使われている用法について正/誤の判断など無意味ですけれども、教育にたずさわってきた人間としてはどうしても気になるところ。

 

ただ、言えることはですね、すでにお気づきとは思いますが、最近のぼくはふだんの記事で「彼」「彼女」といった代名詞を極力避けるようになっています。当該の歌手や音楽家の性別に関係なくそうしているんです。っていうか性別なんてわからないし、そもそも女性的/男性的な外見でも、ヴォーカリストの声が女声的/男声的であっても、そのひとのジェンダー・アイデンティティ(性自認)がどうなのか、知らないわけですからね。

 

(written 2021.6.15)

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