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2021/06/30

遅い音楽

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(9 min read)

 

ファスト映画というものがちょっとした話題、問題になっているそう。

 

映画館で上映されている、あるいは配信されている、映画作品の、その本編ニ時間ならニ時間あるところ、その内容をほんの10分程度に編集して、権利者に無断でYouTubeに投稿するチャンネルが急増しているんですって。

 

数日前のニュースによれば、全国初の逮捕者まで出たというこのファスト映画。映画を10分程度にまとめる際、映像や静止画を無断で使用し、字幕やナレーションをつけながらストーリーを明かしてしまうといったことで、著作権法を侵害するということになります。

 

こうしたファスト映画YouTubeチャンネル、昨春以後のコロナ禍で急増しているんだそうですよ。なかなかの再生回数を記録しているものもあるらしく、多額の広告料収入を得ているはずですね。

 

見るひとが多数いるからということでしょうが、こうしたファスト映画チャンネル流行の背景には、「とりあえず手っ取り早く」内容を知りたいという一般視聴者みんなの志向があるんじゃないかと思えます。映画館などで二時間ほどもじっと拘束されるのが耐えられないということでしょうか。

 

なるべく短時間で手っ取り早く、なるべく手間と時間をかけず、なるべくたくさんの映画の内容を「とりあえず知っておく」ことが一種の教養というか、現代人に必須のたしなみであるみたいな発想があるんでしょうかねえ。ファスト映画チャンネルを利用しているひとだって、それで映画作品を観たということにならないのはわかっているはず。

 

こういった、なんというか手間や時間を極力省いて効率的に対象を手っ取り早くちゃちゃっと知りたいというムーヴメントは、音楽の世界にもあるような気がしています。

 

ファスト音楽みたいなものはまだ話題になっていないと思いますが、でもぼくが気がついていないだけで、たとえば一人の歌手の必聴曲を集めて、1コーラス単位くらいでどんどん切ってつなぎ、編集したという音源が共有サイトに上がっていたりするかも。

 

また、一時間強程度の長さのアルバムを10分程度に編集して「こんな感じですよ〜」と紹介するものがYouTubeなんかにアップロードされていてもおかしくない気がします。映画よりも音だけの音楽アルバムなんかのほうが、そういった短縮編集作業はやりやすいんじゃないかと思いますからね。

 

そこまでのことじゃなくても、サブスクなんかだと飛ばし聴きがきわめて容易ですからね、だから現実的にイントロとファースト・コーラスだけ聴いて、「あ、こういう感じなのね」と合点して、どんどん次へとスキップしていく、なんていう聴きかたをしているファンもたくさんいるんじゃないか、いや、間違いなくいるはずでしょう。

 

ちょっと話がズレるかもですが、たとえばぼくも熱心な音楽リスナーで、なかでもマイルズ・デイヴィス・マニアだというわけで、ときたま「生涯の必聴アルバム10選を教えてくれ」「マイルズはとりあえずどれとどれを聴けばいいんだ、オススメを教えてほしい」みたいな質問が、ブログのコメントやTwitterのリプで寄せられることがあります。

 

生涯のベストテンを選ぶのはかなりむずかしいので答えていませんが、しかし「〜〜の10」とか「ベスト9」みたいなセレクションはぼくもよく書くし、マイルズ関係だってなにかのテーマでくくってのベスト選みたいなのはよくつくります。ブログで書いていますし連動するSpotifyプレイリストも。便利に使ってもらってOKなんですけれども。

 

しかしそんなときに忘れてほしくないのは、マイルズの「〜〜セレクション」みたいなものを書いたりSpotifyプレイリストをつくったりする、ちゃちゃっと簡便につくれる、というそのバックグラウンドには、40年以上にわたりじっくりとマイルズのすべてと向き合い聴き込んできたスロー・リスニングの歴史があるんだっていうことです。

 

その蓄積があるからこそ、思いついたときにぱぱっとマイルズのベスト・セレクションがつくれるのであって、ファスト・ミュージック的な接しかたをしていては、そんなことはとうていムリなわけですよ。ある程度年齢というか経験が必要なことですけどね。

 

「名盤100選」とか「カンタン〜〜入門」とか「〜〜ガイドブック」みたいなものは、紙でもWebでも世にあふれかえっていて、この手のディスク・ガイド、名盤案内みたいなものは、べつに最近流行するようになったというわけでもなく、ぼくが本気の音楽ファンになった40年以上前からたくさんありました(そのころは紙のものだけ)。

 

音楽書だけでなく、小説でも哲学書でも「〜〜入門」「〜〜案内」みたいなものがたくさんあって、売れていた(いる)ようですから、やはりこうした<手っ取り早く内容をかいつまんで知りたいんだけど>っていう需要はずっと前から世間にたくさんあるということでしょうね。

 

そうしたものは、かつては(上でも暗示しましたように)経験を積み重ねた熟練のプロが書くもので、長年にわたりその世界にじっくりゆっくりと取り組んできた膨大な知識と経験を活かしてこそ、カンタン入門みたいなものが書けるというのが一般的だったと思うんですね。

 

近年はコンピューター技術の発達と普及で、それが一般人でもできるようになったというわけで、だからたくさんのファスト映画チャンネルができて人気もあったり、(こっちはあるかどうかわからないけど)ファスト音楽みたいなものをアップロードするひとも出現しているということでしょう。

 

だけど、ぼくはこんな時代に、あえてそんな「ファスト〜〜」が流行する風潮に対抗するように、「遅い音楽」というものを提唱したいですね。

 

遅い音楽とは、一時間強なら一時間強、二時間なら二時間といった音楽アルバム全体をしっかりじっくり聴き込むこと。あるいはもっと膨大な時間をかけてその音楽家や地域、ジャンルの作品をトータルで、いわば全的に、聴いていき、そんな経験のなかから得られるものを大切にしていったほうがいいと、こういうことです。

 

もちろんこれは個人的にそうやって長いあいだ音楽を聴いてきたから、それで得られたものが大きいから、という経験にもとづいての発言で、Spotifyばかり活用するようになった現在でも同じようにそうやって音楽に接しているからなんで、還暦近い旧世代の妄言だよと笑われればそれはそれでしょうがないなとは思っていますけどね。

 

サブスクで音楽を聴くことが世間の主流になったいま、ちょちょっとつまみ食い的に聴くというか、ちょっと聴いてはどんどんスキップし、1コーラス単位で飛ばし聴きして、そうでなくとも一曲単位で聴くというのがあたりまえになっていますけど、あえてそれに、Spotify愛用者でありながら、逆行するような発言を、きょうぼくはしているわけです。

 

マイルズについては、そこそこみなさんから信頼をいただいているんじゃないかという自負もちょっとだけならありますが、「マイルズのバラード・ベスト10」みたいな記事とプレイリストが、どうして苦労せずにできちゃうのかといったあたりを自省してみると、どうしてもゆっくりじっくりマイルズに向き合ってきたからだという結論にならざるをえないわけですからね。

 

遅い音楽、これでないと得られないものが間違いなくあるなというのが、たしかな実感です。

 

(written 2021.6.29)

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