コロナ時代だからこそのラテン・ミュージック 〜 ダグ・ビーヴァーズ
(3 min read)
Doug Beavers / Sol
https://open.spotify.com/album/35ptrFmioIlGF3sLvCWsnE?si=nGax9zwiSjOqNfad5VZGBA
現在のニュー・ヨークにおけるラテン・ミュージック界の重要人物ダグ・ビーヴァーズ。その2020年新作『Sol』がなかなか楽しい。ダグはそもそもエディ・パルミエリのラ・ペルフェクタの主要トロンボーン奏者として名を挙げた存在で、いまはスパニッシュ・ハーレム・オーケストラを取り仕切っていますよね。
最新作『ソル』にもスパニッシュ・ハーレム・オーケストラの面々はじめ、ニュー・ヨークのラテン・ジャズ/サルサ界の人材が大挙集結、派手でにぎやかな仕上がりになっています。COVID-19パンデミックによる大自粛のさなかにレコーディングが実施されたとは到底信じがたいほどの明るい作品なんですよね。
アルバム『ソル』最大の特徴は、パーカッション・サウンドの強化・前景化にあると思います。もちろんラテン・ミュージックなんだから当然なんですけど、それにしても聴いていて目立ちますよねえ。思うに、これはたぶんミックスの際にパーカッション群の音量を持ち上げて目立つようにしたでしょう、じゃないとフロントで歌う歌手や楽器ソロ、ホーン・アンサンブルより大きく聴こえるなんて、ありえないです。曲によって違うみたいですが、だいたい約三名ほどのパーカッショニストが参加している模様。
つまり、リズムの強調、ラテン・ミュージックのその最大の魅力を拡大したということで、これがダグの狙いだったんでしょうね。ヴォーカル中心の歌ものはサルサとして、楽器演奏中心の曲はラテン・ジャズとして、みごとに完成されています。バラードふうのゆったりしたテンポのものが二曲ありますが、それらはどっちもボレーロふうで、それもみごとですね。
ラテン・ミュージックの特色でもある家族的団結主義、それを分断と不安の時代に取り戻そうとした作品であるともいえる音楽性で、トランプ前大統領とコロナの暗い時代にあって、コミュニティを再構築し、分裂を橋渡しし、優しさと思いやりを中心とした価値観に戻ることを目指しつくった音楽、それは図らずもラテン・ミュージックのある種の「人間熱」みたいなものを強調するできあがりになっているなと感じます。
(written 2021.2.23)
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