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2021/07/21

メンドくさいけど、リズム&ブルーズとR&Bは違うのだ

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(9 min read)

 

以前、音声SNSのClubhouseでおしゃべりしていて、けっこうな音楽好きでも誤認しているケースがあるとわかりましたので、いまさらですけど書いておきます。影響力ゼロのぼくがいくら力説したところで知れていますが。

 

それは1947年にジェリー・ウェクスラー(のちのアトランティック・レコーズ経営者)の創案で使われるようになった音楽ジャンル用語「リズム・アンド・ブルーズ」と、1990年代以後にふたたび起用されるようになった「R&B」とは、別の音楽だということです。区別したほうがいいと思います。

 

もちろん、もとは同じことばなので、それを1990年代にもう一回新規に使ってしまったビルボードほか業界に混乱の責任があるわけで、もうちょっと違う、それまで使われたことのないジャンル用語を編み出すべきだったのではないかとの疑念を、ぼくは消すことができません。

 

最初は、それまでずっと「レイス」(race)という用語しかなかったブラック・ミュージック・マーケットに、それではあまりにも人種差別的で時代にも合わないっていうんで、上記のとおり1947年に「リズム・アンド・ブルーズ」との名称が提案され、ビルボードなどもこれを採用することとなり、業界に拡散しました。

 

だから、主に1950年代のああいった、ヒット・チャートに入ってくるようなブラック・ポップスのことを指すことばだったわけです。上でレイ・チャールズとルース・ブラウンの写真を出しましたが、そう、つまりあのへんの歌手たちが発売する曲がリズム・アンド・ブルーズだったのです。ぼくのなかではルイ・ジョーダンやダイナ・ワシントンなんかを入れてもいいのかもという考えがあります。

 

個人的にはその後主に1960年代以後勃興するようになった新形式というか新感覚のブラック・ポップスには「ソウル」の呼称を使いたく、リズム&ブルーズとは区別したい気分があります。根本的・本質的には同じものであるけれど、もっとゴスペル要素を強めた高揚感のあるブラック・ポップスがソウル。公民権運動の時代と共振する要素があったことも重要です。

 

リズム&ブルーズからソウルへの移行がいつごろなのか?は正確に判断できません。あらゆるソウル歌手の源泉とみなされるサム・クックがゴスペル界を離れソロで世俗音楽界に転向したのが1957年。アリーサ・フランクリンのアトランティック移籍が1966年ですから、だいたい50年代末〜60年代半ばといったあたりでしょうか。

 

しかし、ソウルの時代になって以後も、ビルボードなどチャートや業界はやはりリズム&ブルーズの名称を使い続けました。おかげでいまでも「R&Bチャート何位、ポップ・チャート何位」といった当時の実績が紹介されたりするわけです。そう、「R&B」と省略することも多かったのが、現在21世紀に混乱を引き起こしている原因の一つです。

 

その後1980年代になって、チャートや業界が採用する時代のヒット・ブラック・ポップスの名称は、一回「ブラック・コンテンポラリー」になりました。たしかに質もちょっと変わったかなと思える部分があり、これはこれで内実に沿った名称変更だったように思います。ジャズ・フュージョンやAORなどの要素も大胆に取りいれたスムースでマイルドなサウンドになり、都会的洗練を特徴とするようになりましたからね。

 

ルーサー・ヴァンドロス、ボビー・ブラウン、メリサ・モーガン、初期ウィットニー・ヒューストンあたりも、この略称「ブラコン」に分類していいんじゃないでしょうか。決して強くシャウトしたりしないのも特色でしたね。

 

1990年代に入り、またちょっとブラック・ヒット・ポップスの傾向が変化したような部分があり、もちろん音楽はちょっとづつ変わるものだから、何年ごろから?なんて厳密な線引きは不可能ですが、1980年代に勃興した、コンピューターを用いてのヒップ・ホップやサンプリングなどの手法を取りいれループなども多用するようになったので、ビート感覚やサウンド・メイクが新しくなりましたよね。

 

具体的にぼくが憶えているのは、マライア・キャリーの代表的傑作『エモーションズ』。これのリリースが1991年でしたが、サウンドやビート・センスがあきらかに変わったなと当時からリアルタイムで思えましたからね。

 

やっぱり最大の特徴はヒップ・ホップ由来のビート・ループを用いたトラック・メイクとエレクトロニクスの活用ですよね。このことで音楽性が刷新されたような印象があって、もちろんマライアだけじゃなく、同じく1990年代以後に登場したブラック・ポップ・シンガーたちの音楽全般に当てはまることだったんです。

 

こういった、1990年代におけるいま一度のブラック・ヒット・ポップスの変容を受けて、ビルボードなど業界も、その名称を改める必要性を感じるようになり、しかしそれで採用したのが「R&B」だったんですね。そう、なんと1950年代に使われたのと同じ名称をもう一回採用してしまったんです。これでは混乱するのも必至で、罪深いことでした。

 

なぜ、どうして、1950〜70年代の用語だったR&B(リズム&ブルーズ)を、90年代以後の新傾向歌ものブラック・ポップ・ミュージックを指すことばとしてもう一度使うことにしたのか、当時のビルボードの担当者の内心を推し量ることなどできませんが、一般のリスナー、ファンのあいだでは、「R&B」とだけ言った際、どのへんの歌手のことを念頭に置いているかがたいへんわかりにくいという現象が発生することとなりました。

 

区別するために、1990年代以後のものは「コンテンポラリーR&B」とわざわざ言うこともあり、ホ〜ントまぎらわしいったらありゃしない。レイ・チャールズもアリーサ・フランクリンもジェイムズ・ブラウンもスティーヴィ・ワンダーも、エラ・メイもウィークエンドもジョン・レジェンドもメアリー・J・ブライジもアリシア・キーズも、み〜んな「R&B」なんですよねえ。なんだよもう。

 

個人的には、ブログなどで書く際やはり区別したいとの気持ちから、1950年代のものは「リズム&ブルーズ」と言い決してR&Bとは略さず、90年代以後のものをコンテンポラリーR&Bとか今様R&B、あるいはたんに「R&B」と呼び分けています。がしかしもとが同じことばなので詮ないことですよ。

 

コンテンポラリーR&Bのもうひとつの特色は、特にアメリカ黒人とかぎったことじゃなく、人種や国籍を超えてひろく一般に使うことができるようになったことばだということにもあります。情報の伝達速度や拡散力が1990年代以後大幅に上がったので、黒人コミュニティー内に限定される音楽という意味合いは失ったと思いますね。

 

音楽制作の方法論も世界で一般的に共有されるようになったわけですからね。だから、マドンナやジャスティン・ティンバーレイクもR&B歌手と言われることがあるし、日本でも久保田利伸やMISIA、安室奈美恵、宇多田ヒカル、藤井風など、特に「和製」とか「日本人」とかの枕詞をつけずにR&B歌手と言われたりもしますよね。

 

(written 2021.5.18)

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