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2021/07/25

宮本浩次の女歌 〜『ROMANCE』

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(5 min read)

 

宮本浩次 / ROMANCE

https://open.spotify.com/album/2HZ7xh3U4lVXnI6sYrxhZa?si=nCqJH-P9QW6_0EN860B4QA

 

エレファントカシマシの宮本浩次が昨年リリースしたカヴァー・アルバム『ROMANCE』(2020)がちょっと話題ですよね。それきっかけでテレビの歌番組出演も増え、アルバムも売れているみたいだし、評価も高いようです。気になってぼくもちょっと聴いてみました。

 

このアルバムは女性歌手のレパートリーばかりをカヴァーしたというところに最大の特色があるもので、しかもちょっと古めの歌謡曲が多いというのも目立ちます。宇多田ヒカルの「First Love」が1999年というのがいちばん新しいくらいで。

 

ユニバーサルが開設しているアルバム公式サイトには「宮本が愛したおんな唄」とのことばが大きな文字で掲載されていて、つまりエレカシでデビューする前の、少年時代の宮本がよく聴いていた歌謡曲、それも女性の歌ばかり、というので構成されたという部分にやっぱりフォーカスすべきアルバムなのでしょう。

 

定評のある日本人男性歌手による女性の歌謡曲カヴァー集というと、徳永英明の『VOCALIST』シリーズなど有名ですが、あれはもう第六集くらいまでリリースされているんでしたっけ、徳永のライフ・ワークになりましたね。ぜんぶSpotifyにあるようなので、機会があればまた聴きかえしてみましょう。

 

日本の歌の世界では、そうやって男性歌手が女性の歌をそのまま(歌詞の性別変更なしで)やったり、女性歌手が男性の歌をやったりするのは、むかしからあたりまえのことで、ぼくは以前それを「男歌・女歌」として二回、このブログでもフォーカスし記事にしてきました。
(1)https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-c90d.html
(2)https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-301c16.html

 

だからちょっとハードでワイルドなイメージもある宮本浩次が女性の歌を、歌詞内容の変更もなしで女性の立場に立ったままで、カヴァー集をつくるのも、なんらビックリするようなことではありません。歌や芸能の世界では、性別を軽々と超えるというのが日常茶飯事で、演者が歌の世界のその役割に立って表現するのは当然のことです。歌舞伎や宝塚のことを考えてみてください。

 

ところが音楽リスナーもふくめ一般社会ではなかなかこういった考えが浸透していないらしく、男が女の歌を歌うなんて、とか(その逆とか)、ちょっとものめずらしいんじゃないという興味本位で話題にしたり、なんていうケースがまだまだ目立ちますよね。昨2020年の宮本『ROMANCE』に対する注目にも、それに似た態度を感じてしまうばあいもあります。

 

もっとストレートに、というか素直に、男性歌手が女歌を歌うことは日本の歌謡界ではあたりまえのことなんである、日常である、という認識をどんどんひろめていきたいなと、常日頃からぼくは考えておりますね。(歌の)性別をクロスする、それは歌の世界における演技・役割にすぎないんですから。

 

そういった視点に立てば、宮本浩次の『ROMANCE』もストレートな女歌集で、小林武史のプロデュースとアレンジも宮本のヴォーカルも、もとの歌の持つ魅力を存分に活かさんとして配慮されているのがよくわかり、好印象です。サウンドがややハードかなと思わないでもないですが、これくらいが宮本の資質に似合っています。

 

なかでも感心したのは4「化粧」(中島みゆき)、5「ロマンス」(岩崎宏美)、7「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)、8「喝采」(ちあきなおみ)あたり。これらでは宮本が歌詞の意味をじっくりかみしめるようにていねいに歌い込んでいて、歌そのものの持つパワーが胸に迫ります。特に「化粧」がほんとうにいい。ちょっと泣きそうになっちゃいましたもんね。曲そのものがいいからなんですけど。

 

ラスト12曲目「Fisrt Love」(宇多田ヒカル)は、これ、たぶん宮本ひとりでのギター弾き語りでしょうね。サウンド面での化粧をほどこさず、剥き身のヴォーカルをあらわにすることによって、歌手としての宮本の実力や魅力もよく伝わってくる内容で、これをアルバムの締めくくりに持ってくることで『ROMANCE』はいっそうの輝きを得たのだと言えましょう。

 

(written 2021.3.23)

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