堂々たるバラード歌唱とR&Bテイストが最高 〜 マライア・キャリー『バタフライ』
(3 min read)
Mariah Carey / Butterfly
https://open.spotify.com/album/7aDBFWp72Pz4NZEtVBANi9?si=ZkJPVnYDSd-GOsNQLkB0Dw
きのうマライア・キャリーの写真を使って本文でも言及したら、ちょっと聴きなおしたくなってちょこっとSpotifyであさっていました。特に1997年の『バタフライ』。これ、CD買って聴いた発売当時はそんな強い印象なかったんですけど、今回聴いてみたらかなりいいですねえ。傑作でしょう。
日本語版ウィキペディアの情報によれば、このアルバムは多くのラッパーを起用してR&B、ヒップ・ホップ系に大きくシフトしたものらしく、なかでも1曲目の「ハニー」が当時の音楽界に衝撃を走らせ、マライアによるこの曲の発表によってポップスなどからR&Bやヒップ・ホップなどがアメリカでは全盛期を迎えることになった、ということなんだそうです。
たしかに「ハニー」のサウンドやトラック・メイクは、ポップ・フィールドにいる歌手のものとしては当時大胆だったかもしれません。サンプリングも使いながらループでつくったビート、ラップやスクラッチも挿入されているし、ブラック・ミュージックの手法を活用した一曲だったといえましょう。
アルバム『バタフライ』は、こんな傾向のコンテンポラリーR&B仕様なサウンドと、以前からのお得意路線だった歌い上げ系バラードとの二本立てで構成されていると言っていいでしょうね。「ハニー」に続く2「バタフライ」も3「マイ・オール」も6「フォース・オヴ・ジュライ」もしっとりバラード。でもビート・メイクだけはいかにも同時代的です。
4「ザ・ルーフ(バック・イン・タイム)」、6「ブレイクダウン」、7「ベイビードール」が、やはりデジタルなビート・メイクが目立つコンテンポラリーR&B調で、マライアのヴォーカルも、全盛期だった1990年代初期に比べやや落ち着いてきているというか、低くたなびくささやき系みたいなフィーリングに移行しつつあるのが特徴ですね。
しかしこのアルバムの白眉は、堂々たる歌い上げでもって聴き手をパワーでねじふせるような9曲目「ウェンネヴァー・ユー・コール」。こういったバラードにおけるゴスペル・スタイルな歌唱力は、もちろんデビュー期からのマライア最大の長所であったわけですが、ここでもまったく不変です。まさに力業というべきか、うむを言わさぬ説得力がヴォーカル・トーンやフレイジングにありますよね。今回ぼくはこの一曲だけで降参してしまいました。
アルバムではその後、プリンスのカヴァー(『パープル・レイン』1984)である11曲目「ザ・ビューティフル・ワンズ」もすばらしい。プリンス・オリジナルはまだコンテンポラリーR&Bが姿かたちを整えていなかった時代に発表された曲ですが、ここでのマライアは完璧なるR&Bマナーでのサウンドやビート・メイク、ヴォーカル・スタイルで、新しい一曲に生まれ変わらせています。
(written 2021.5.19)
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